[内容]
子供の立身を楽しみに生きてきた母親と、真面目だけど不甲斐のない息子の
物語。 (1936年 製作国 日本)
[感想]
モノクロで、昔懐かし俳優さん達が皆さんとても若く、それを見るのも楽しい。
舞台は1923年の信州。おつねは息子の良助を一人で育てている貧しい女工だが、
進学したいと願うわが子の為に、秘かに田畑を売って上京を許す。
それから十数年後。息子に会うために上京したおつねが目にしたのは、母親
の自分に一言の連絡もなく結婚して、子供までいる息子の姿だった。
良助は夜学の教師をしていて、貧しい暮らしを言い訳するかのように、都会暮
らしの大変さを語り始め、おつねをガッカリさせる。
しかし翌日近所の貧しい家庭の子が大怪我をして、その入院費を良助が工面
してあげたのを見て、おつねの失望の気持ちは安堵と誇らしさに変わる。
結婚を親に黙っていたのは気に入らないが、出世などしていなくとも優しい妻
と可愛い子供がいて、人として真っ当なら何の問題があろう。
良助がいかにも昔の男らしく女房には威張った態度で、女房も又昔の女性ら
しく健気に尽くす様子は、この時代風に言うと“おかしくてやがて悲しき”だが、
近所の人達や出世の夢破れた良助の元の担任など、登場人物は皆不遇の中でも
何とか生活していて、めげるなと応援したくなる人ばかり。
戦前の貧しくも頑張って生きる庶民の生活がよく分かる映画で、母親役の
飯田蝶子の抑えた表情と真っ当な発言も良かった。
昔に限らず現代でも、貧しくて進学できない子や教育ローンの返済にしんどい
思いをしている人は大勢いる。売る田畑があったおつね母子は、贅沢は出来
なくとも恵まれていたと言えるかもしれない。