[内容]
認知症の母親と、その息子と家族の、愛と葛藤の物語。
(2012年 製作国日本) 映画賞受賞
[感想]
井上靖の私小説が原作で、撮影には世田谷の井上邸が使われている。
小説家の伊上洪作は、子供の頃祖父の妾に預けられ、土蔵で暮らしていた。
父親の仕事の関係で家族全員台湾に渡り、その時に洪作だけ日本に残された
為で、人にはそのことを「捨てられた」と冗談めかして話していたが、自分
だけが郷里に置き去りにされたと、屈折した思いを抱いていた。
父が亡くなり、初めは妹が母親を引き取って暮らしていたが、上手くいかず
洪作が引き取ることに。しかし物忘れのひどい母・八重が原因で色々問題が生じ、
洪作の三女の提案で、八重は軽井沢の別荘に引っ越すことになった。
数年は平穏に過ぎたが、痴呆の進んだ八重が夜な夜な徘徊するようになる。
ある時気持ちを押さえられなくなった洪作が、八重に向かって「息子さんを郷里
に置き去りにしたんですよね。」と、責めるような気持ちで問いかけた。
しかし八重の口から出た言葉は思いもよらないもので、洪作は昔の記憶の中で
生きるようになった母親の言動により、自分がどれ程愛されていたかを知る。
洪作が子供の頃に書いた詩を暗記していて、その紙きれを肌身離さず持ち、幼
い息子を探して徘徊していた母。八重の愛と辛かった心を知って嗚咽する洪作。
観客も もらい泣きしてしまう切ないシーンが続く。
息子の心の傷とねじれを扱った作品だが、ウツウツとした雰囲気はなく、八重に
対する家族の愛は、頭が下がるほどだ。 三女の反発心や、献身的な妻に結構
計算高い面があるなど、家族それぞれの思いもしっかり描かれている。