[内容]
長期強制入院、身体拘束、虐待、薬漬け等々、精神医療に関する取材の記録。
副題『ニッポンの精神医療を問う』
[感想]
東洋経済オンラインで連載されていた『精神医療を問う』の書籍化。
日本は他国と比較して、精神科病床数が突出しており入院期間も長いという。
「医療ではなかったと思っています。収容所のような場所でした。」
これは元入院患者の証言で、本書にはこの言葉に代表されるような、俄かには信じ
がたい多くの事例が明かされている。以下にその中から幾つかを抜粋。
・突然屈強な男達に家から連れ出され、精神病院に強制入院となった。
・DV夫の策略で長期入院させられた。
・認知症と診断され、強制入院を余儀なくされた。
・拒食症を理由に、2か月以上身体をベッドに拘束された。
日本の精神科入院の約半数は、家族と精神科医の判断による“医療保護入院”だとい
う。理不尽な身体拘束の多さも問題で、国連拷問委員会から繰り返し勧告を受けて
いるとか。(本書では、医療保護入院と身体拘束ついて多くの頁が割かれている。)
入院後は外部との連絡は遮断される事が多く、薬漬けと虐待は日常茶飯事。しかし
病院協会代表は、「精神科病院は社会秩序の担保と保安を担っている」と発言。
つまり、周囲に害悪をもたらす人間に対するやむを得ない処置…ということだ。
精神科病院が情報開示に消極的であることも、大きな問題となってきた。
ところで本書の事例は、“患者側の一方的な主張”と見る人も少なくない。
だが下記のような報道を見ると、本当に特殊なケースなのか?と思わざるを得ない。
・1983年 栃木県の宇都宮病院で、入院患者2名が暴行により死亡。
・2020年 神戸市の神出病院で、複数の入院患者に対して虐待暴行。
・2023年 東京都の滝山病院では、患者の約78%が“死亡退院”
更に大阪の大和川病院では、患者の人権侵害や不正な医療行為が繰り返されており、
この病院の過去の虐待事件と隠蔽についても、詳細に論じられている。
本書でもう一つ驚いたのが、発達障害と診断された子供達も向精神薬などの薬漬け
状態になっている…ということだった。子供の時からの長期服用で、薬を止められ
なくなるケースは珍しくないそうで、教師から「(大人しくさせる為に)薬を飲ませ
てから登校させて下さい。」と言われた母親の葛藤や、職員に指導されるままに服
用を続ける児童養護施設の子供達の様子に、悶々とした思いになった。
本書ではこの他、治療の歴史、世界との比較、行政の政策、診療報酬と病院経営の
都合で変わる入退院など、様々な角度から精神科医療について解説されている。
又、薬漬けからくる副作用や、不当な扱いを裁判に訴えた幾つかのケースについて
も詳しく述べられている。
報道によると、厚労省は医療保護入院の縮小と将来的な廃止を検討しているという。
ネットには、現状改善の為に活動している医療現場の人達の訴えも載っていた。
精神科病院は、急増している認知症患者の受け入れ先でもある。本書に書かれてい
る数々の理不尽を他人事と思わず、今後の変化を皆で注視する必要がありそうだ。