[内容]
中高年ひきこもりの想像以上に深刻な実態と、支援者の取り組みを取材したルポ。
副題『親亡き後の現実』
[感想]
本書は2020年放送のNHKスペシャル『ある、ひきこもりの死 扉の向こうの家族』
の書き下ろしで、全国1392カ所の相談窓口を通して丹念に調べられた多くの実例と、
関わった人達の思いが綴られている。
2019年の、40才以上のひきこもりは推計61万人。(2024年は65万人)
同年の"ひきこもり死"は72名で、死は免れたが命の危険があったと判断された人は
その5倍近く確認されている。しかし、それらは氷山の一角だと見る人もいる。
そもそも“中高年ひきこもり”とは、どんな人達なのだろう。
ひきこもりの理由は様々で、学生時代(学童含)や進学・就職でつまずいたことがき
っかけだったり、仕事を辞めたことで人生が一変した人も多い。怪我や病気もある。
真面目な人が多く、そのため自分は社会にとって必要のない人間だと絶望し、中に
は自暴自棄になって家族に暴力をふるうようになった人間もいるという。
その結果、親は言いなりになり「外には出せない」と親子で孤立していくことも。
しかし親の年金などで暮らしていける内はいいが、自分を支えてくれていた身内が
亡くなると状況は一変。以下はその実態の一部。
・高齢の親が亡くなった後に、誰にも知られず衰弱死。
・無職の弟の生活を支えていた高齢の兄が倒れ、兄弟共に遺体で発見。
中には面倒を見てくれていた家族が亡くなったことを周囲に伝えることが出来ず、
遺体を放置・遺棄した人もいて、この手の事件は(当時)1年間だけで、全国で少な
くとも30件近くあったという。
また自治体からの支援を拒否した人は、全国で7割にものぼるという。
そこまで窮しても支援を拒む理由は何か。まず、生活保護は他の身内に連絡が行
くので避ける。あと、働いていないことに強い罪悪感を持っていて、「公的な援
助を受けるなどとんでもない」「人に迷惑はかけたくない」などと考える人も多い。
実は行政に相談したことはあるが、説教されたために二度と関わろうとはしない
…という人も少なくないそうだ。
とはいえ本書からは、拒否されながらも苦境から救い出そうと悪戦苦闘する職員の
大変さもヒシヒシと伝わってくる。
「目の前に、命が危険にさらされている人がいて、心配して連日訪問を続けている
職員がいるというのに、実際にその人が倒れ、救急車を呼ばなくてはならない状
況になるまで何も出来ないという現実…。」(立ち入りは警察でなければできない)
本書が一番スペースを割いた男性Sさん。亡くなるまでの生活とその後を追ったも
のだが、最後まで彼のことを心配しながら亡くなった父親の、一家の記録とも言え
る数十年に及ぶ日記の内容と、ほぼ絶縁状態だった弟さんの後悔の言葉がせつない。
最終章は、当事者達の思いを聞きながら、ひきこもりの人への寄り添い方と支援の
在るべき姿の考察で、当事者には大変参考になる内容となっている。