「内容」
郷里を捨てた息子が、父親の死後に両親の真実を聞かされ、父親の愛を知る。
「感想」
東京の大学に入学して以後、陽一が実家に帰ったのはたった数度だけだったが、
父親の訃報を受け、葬儀に出席する為に15年ぶりで故郷の鳥取に帰った。
理髪店を営んでいた父親は仕事一筋の人間で、母親は陽一が小学生の時に、不倫
関係にあった姉の担任と再婚している。
まだ子供だった陽一は「母は父のせいで出てった」と誤解し、父親に心を閉ざした
まま歳月が過ぎていた。
通夜の会食の席で、父親に冷たかった陽一を責める者はいなかったが、学生時代に
色々と世話になった母方の伯父が、陽一に両親の若い頃のことを話し始める。
父のことは全て自分の誤解だったと知った陽一は涙を流すが、実直で不器用な父親
の心を思うと、息子の涙よりそちらの方が切ない。
陽一の姉が母親のことを、「母は自分に正直に生きた。」と言ったが、何の落ち度
もない夫や子供を苦しめた人間には、私はもう一つ「身勝手だった。」という言葉
を加えたい。
昭和27年の鳥取大火災の時に、父親が燃え上がる自宅に飛び込んで飼犬を救助
する場面がある。私が子供の頃、近所の家が火事に見舞われたことがあるが、
あの火は熱いなんてものではなく、皮膚が痛くてとても近寄れるもんじゃない。
そんな父親の凄さや辛さを死後に知ることになった陽一だが、この父親なら
きっと、寂しくとも息子を許していただろう。
父親の後妻や縁者が皆暖かい人柄なのが救いで、独特の趣きのある漫画だった。