子供の時、近所に “嘘つき”と言われている女の子(Rさん)がいた。
少しワガママだが愛嬌があり、嘘の内容はすぐばれる他愛の無いもの。
私がまだ親元で暮らしていたある日のこと。突然家に来たRさんから、切羽
詰まった様子で「匿って!」と言われた。訳を聞くと、無理やり結婚させら
れそうなので、逃げて来たと言う。
私は彼女が結婚する事さえ知らずにいた上に、逃げた理由が「彼に飽きた。」
で思わず絶句。聞けば結婚式は数日後だそうで、私は一生懸命説得を続けた。
3時間ほど経った頃、居間に居る父に私だけ呼ばれた。たった今Rさんの父親
から電話があり、うちに居ることが分かった途端、酷い言葉を浴びせられたら
しい。私は、事情を知った父から「あの子は帰しなさい。」と厳しい顔で叱られ、
親達の怒りは当然なので「きちんと話し合うように。」と彼女に伝えた。
共通の知人によると、結局Rさんは結婚式を挙げたが、数か月後には離婚。
私のことは「裏切者。絶対に許さない。」と言っていたそうだ。
それから10数年後のこと。突然Rさんから電話が来て、私の家に泊まりに来
たいと言う。迷ったが、あの時の事を聞きたいと思い承諾。しかし彼女はその
話は はぐらかして、小説のような“波乱万丈の人生”を語ることに終始した。
翌日、迎えに来たのは彼女の父親だった。私とは初対面だが、その人は何故か
「あっ」という顔でしげしげと私を見つめ、別れの挨拶の時は驚くほど丁寧に
深々と頭を下げていかれた。多分、娘の昔の嘘に気付いたのだと思う。
ちなみに子供の虚言癖は、病気でなければ早い時期の適切な対処で悪化を防げ
るそうだ。彼女が病気だったかどうかは、分からない。