ほたるBBの 絵と 本と 雑感日記

60代後半に再開したお絵描きと、読書の備忘録。考えさせられたことなども綴ります。

読書感想『英語化は愚民化』(施 光恒)

[内容]

英語を日本の標準語にすると何が駄目になるのか、世界の歴史と現状を多くの

例と識者の意見を挙げながら解説。副題『英語教育改革で自ら“後進国”に』

[感想]

著者は政治学者。九州大学大学院教授。

 

何年か前に楽天が英語の社内公用語化を宣言し、その後同じような会社が続出。

学校の英語教育も大幅に改定された。全ては未来を見据えての決定だというが、

一介の老人にすぎない私ですら、この流れにはどこか選民意識に近い排他的な

ものが潜んでいるのが感じられ、この国の将来が心配になった。

 

私の、その不安の正体を解明してくれたのが本書で、特に下記は重要だと思う。

(英語化は)「ごく一握りのエリートが経済的にも知的にも特権を握り、それ以外

の大多数の人々は、社会の中心から締め出され、自信を喪失してしまう世界にほ

かならない。」

 

著者自身は語学に堪能で、英語教育を否定するものではなく、とどのつまりこれ

らの改革の目的は、グローバル企業が日本で商売しやすくするためであると警鐘

を鳴らしている。

 

中世ヨーロッパは格差社会で、「ヨーロッパの共通語であるラテン語を使いこなし

て知的活動を行い、政治的・経済的な権力も保持する一部のエリート達」と、

「土着語(母語)で会話をし、聖書さえ自分では読めず、身の回りのことだけを考え

て暮らすその他大勢の庶民」に二分されていた。

 

しかし16世紀前半に起きた宗教改革で、ドイツを始め各国で聖書がその国の言葉に

翻訳されたことにより、ラテン語を理解する人達と、無知無学だった庶民の格差が大

幅に縮小されていき近代化に拍車がかかったという。

 

著者は、日本社会の良さの一つとして“知的レベルの高い中間層の存在”を挙げ、

今の日本は正に上記の時代に逆行しようとしており、そうなれば英語を理解しない

人達は社会のあらゆる面で不利益を被ることになり、中間層は没落すると警告。

 

以下に本書の一部を要約。

 

・明治以来日本は、欧米の言語を翻訳して、日本語で世界水準の思考を可能にし

 た。高度に知的な作業を行う環境が整っていたからこそ、製造業も発展し得た。

 

・アフリカやインドでは高度な知識は英語で学ぶしかなく、大多数の人は国を動

 かすことに参加できず、「格差」社会になっている。

 

・英語偏重の教育改革は、世界の「英語支配の序列構造」の中で、日本が非常に

 不利な立場(搾取される立場)に置かれるのは必至。

 

・英語を公用語にした会社は、仕事の能力以前に言語でふるいにかけられる。

 

・大学の授業が英語化されると、学生たちは専門科目だけでなく、英語を身に付

 けるために莫大な時間と動力が費やされ、潜在能力を発揮できるに至らない。

 

この他、「スーパーグローバル大学創成支援制度」の始動、地域的に限定した特区

の設定、TOEFLの利用等々、英語の公用化に関する様々な解説が続く。

 

しかし、英語は既に世界の共通語となっている。この現実を見ると、果たしてこの

流れを止めることは出来るのだろうか。結果が出る頃には私(75才)は生きていない

と思うが、子や孫の世代のことを考えると他人ごととは思えない。