[内容]
先進国では今、“上級国民” 対“下級国民” という分断が起きており、本書で
は世界がこのような状況に至った歴史と現況を深掘りして考察。
[感想]
著者は多数のヒット作を輩出している作家。元宝島社の編集者で、本名は非公開。
“上級国民”と言えば、2019年の池袋暴走事故を思い出す人も多いと思う。この時
に加害者(87才)が無罪を主張したことと、すぐには逮捕されなかったのは旧通産
省出身だったからではないかと世間の反感を買い、一気にこの言葉が広まった。
表紙に「みんな薄々気づいている『言ってはいけない』分断の正体」とあるが、
確かに言いづらい事もズバリと書かれていて、面白く読ませてもらった。
先進国では「知識社会化・リベラル化・グローバル化」が進み、国全体としては
豊かになっているが、国民は数少ない富裕層と多くの貧困層で分断されている。
著者は、この格差は“知能の差”に起因しているとして、日本及び他国の産業・雇
用の特徴と変遷を、様々な統計の数字から分析して分かり易く解説。
日本経済の低迷の原因としては、規模の大きな製造業などがコスト削減の為に
積極的に海外に進出していること、日本は欧米に比べて開業率が低いこと、外
国人投資家による投資が少ないことなどを挙げている。
その中でも日本の雇用形態に関しての解説は、歯に衣着せぬ表現で特に面白かっ
た。以下に、その一部を要約したものを2つ。
・日本では労働組合によって、既得権を持つ正社員だけが過剰に保護されており、
製造業の工場の海外移転と、非正規比率の急増はこれで説明できる。
・団塊の世代は政治家にとって最大の票田。彼らの利害が、会社→年金に移った
ことでようやく “働き方改革”が進められるようになったが、逆に“社会保障改革”
は困難になった。
現代日本社会において、“下流”の大半は高卒・高校中退者で、男女共に学歴が低
い人は幸福度も低いという統計結果が出ているという。
又、社会的・経済的地位のある男性を指して、「“持てる者(上級)”はモテる者であ
り、彼らの中で結婚と離婚を繰り返すことの出来る者は、事実上の一夫多妻であ
る。」と解説。
成程そういう捉え方もあるかと少し笑ってしまったが、反対側には、大勢の
“非持て(下級)で居場所が無い”と言われる人達の存在がある。
彼らを自己責任だと一刀両断するむきもあるが、例えばオランダのように均等
待遇が法制化(本書58頁)されたら、日本も非正規だからと彼らを低賃金で差別す
ることは出来なくなる。それをしないのは、その方が国にとっても企業にとって
も都合が良いからだろう。
アメリカを始め世界の歴史と現況についての解説の後、著者はこうも言っている。
「グローバル化によって数億人が貧困から脱出したことで、世界全体における
不平等は急速に縮小しているのです。」(←特に中国とインド)
その他、本書で印象深かったものを2つ。
・アメリカでは、マイノリティの優遇措置によってレベルの低い専門家 (医師や
法律家など)が生まれているとして、 一部の黒人の間から、黒人に対するすべて
の優遇措置の廃止を求める声が上がっている。
・著者は日本でベーシックインカムは不可能と見ており、理由をこう書いている。
「 (略)仕事などせず海外の貧しい女性に子どもを何人も産ませて、楽に暮らそう
と考える日本人の男が大量に出てくることは間違いありません。」←そうかも(笑)。
著者は最後に、現在の知識社会のこの現象(上級/下級)は「知識が不要になるくら
いAIが発達した時に終わる。」と予測している。
本当にそんな時代が来たら、今とは別の意味で恐いかも…。