ほたるBBの 絵と 本と 雑感日記

60代後半に再開したお絵描きと、読書の備忘録。考えさせられたことなども綴ります。

読書感想 『内モンゴル紛争』(楊海英)

[内容]

中国によるモンゴル弾圧・紛争・言語同化政策は、どのようにして起きたの

かを、民族地政学の視点から解説。 副題は『危機の民族地政学

[感想]

著者は内モンゴル出身で、現在は静岡大学教授。

 

中国によるモンゴル弾圧は、新疆ウイグルチベットとよく似ている。香港や

台湾の問題もあり、本書を読んで改めて中国の恐ろしさを感じた。

 

内モンゴルは中国の内陸部に接した広大な地域で、1947年に中国が内モンゴル

自治区の成立を宣言。移住政策により現在モンゴル人の数は2割にも満たない

が、独立・統一を目指す抵抗運動は、世界中のモンゴル人によって今も続けら

れているという。

 

本書の前半はチンギス・ハーンを始め、モンゴル、回民、漢族の権力争いなど

モンゴルの歴史の解説となっており、他にロシアやインドなどの周辺各国、更

に日本との関係にも言及。

 

1800年代には西洋の宣教師が、キリスト教に改宗した漢人難民にモンゴルの

土地を勝手に与えるなど、中国の自治区になるずっと以前から多くの侵害を受

けてきた事実にも驚かされる。

 

自然環境にも問題が生じており、中国人が草原を農耕地に変えたことにより砂

漠化が進み、多くの野生動物が迫害によって絶滅したそうだ。

一般に、砂漠化は気候変動の影響もあると言われている。

 

有名な絵本「スーホの白い馬」の解説が面白い。これは元々中国人作家によっ

て作られたお話で、本の内容と違い遊牧社会では土地の所有に即した搾取階級

は存在せず、遊牧民が大事な家畜を武器で殺すことなど有り得ない事だとか。

 

内モンゴル第二次世界大戦中、三分の二が日本の支配下に置かれており、著

者は当時のことをこう書いている。

「モンゴル人は単純に『日本に協力』したのではなく、日本軍の力で中国から

 の独立を目指していた。日本もモンゴル人の目標を理解し、支持していた。」

※1945年のヤルタ協定で、米英ソによる対日戦後処理の一環としてゴビ草原

 以南の地域は中国に、日本の北方四島ソ連に渡された。

 

2020年には中国が、内モンゴルの公教育からモンゴル語を排除して中国語を

母語として推進する決定を下し、これに対して大規模な反対活動が起きた。

しかし中国の政策に異を唱える者は、反動主義者として今も容赦のない弾圧を

受けているという。

 

著者は最後にこう書いている。「日本に対して侵略した、しなかったというシ

ンプルな歴史観に基づく非難は過去にも今も内モンゴルにはない。だからこそ

日本は元宗主国として内モンゴルのモンゴル人が置かれている状況について

北京当局に抗議すべきである。」

 

日本がこれを実行することは考えられないが、実際著者のこの考えを支持する

人は、どれくらいいるのだろう。