近所に、80才迄趣味の教室の講師をしていた女性(Тさん)がいる。
私も何年かその教室に通っていたのと、お互い動物好きなのとで話が合い、10
年経った今でもたまにお茶飲みを楽しむ関係が続いている。
1年程前のこと。Тさんから長年可愛がっていた飼犬が亡くなったという電話が
あり、最後のお別れのために彼女の家に向かった。近所の奥さんも来て、3人で
ワンちゃんの思い出話をしていたところに葬儀社の人が到着。
私の場合飼い犬猫が亡くなった時はいつも、こちらから葬儀社に出向いているの
だが、Тさんは自宅で葬儀をしてもらう予定にしていた。
やって来たのはまだ若い男性(Aさん・20代前半?)で、自宅葬の内容は基本的に
葬儀場でのそれと同じだったが、幾つか気になることがあったので式が終わった
後で彼に訊いてみた。
Aさんは一つ一つ丁寧に説明してくれ、最後に私の「ペット葬儀社の若い男性で、
お経まであげられる人は珍しいですね。」という不躾な言葉にも応えてくれた。
彼は小さい時から幽霊を見ることがあり、それで体調を崩したり、時には怖い思
いをすることもあったそうだ。しかし自分ではどうにもならず、祓うことも出来
ない為ずっと足掻いていたが、何年か前に師匠となる人と出会い今も修行中の身
なのだという。
動物が好きなのでこの仕事を選んだが、この先どうするかは何も決めてませんと
言って、穏やかな笑顔で話を終えた。
それを聞いて私が思ったのは「実直で優しそうなこの青年に、ペットの死と関わ
る仕事は辛過ぎるかも…いつまで続くかな?」というものだった。
それから1年後のつい先日のこと。Aさんはまだ同じ葬儀社で働いていた。
こちらから声を掛けて少しだけ話をしたのだが、あの時とはまるで別人のようで、
謙虚だがすっかり頼もしくなっていた。
私達2人の会話を少し驚いた顔で聞いていた同僚の人が、後で教えてくれた。
Aさんの年齢は31才。一度その同僚さんの体調が悪い時に、背中に手を当てて治
してくれたことがあったそうで、「不思議な人ですよね。彼は100年は生きてる
んじゃないかって気がします。いや400才くらいかも。」と、真面目な顔で言っ
ていた。
この日私は、ヤムチャ(飼猫17才)との最後のお別れの為にここに来ていたのだが、
Aさんと話したことで少しだけ悲しみを和らげることが出来た。
Aさんと会うことはもう無いと思うが、彼はいつか人の心を救う道に進むことに
なるだろう…と、今はそう感じている。