[内容]
1950年チベットに軍事侵攻した中国政府に逮捕され、“思想改造”の為に33年
もの間、獄中で飢えと強制労働、拷問に耐え抜いた僧侶の自伝。
[感想]
著者が中国政府に逮捕されたのは1959年28才の時で、「スパイ容疑をかけられ
た師を告発せよ」という要求を拒否したことにより、政治犯として7年の懲役を
言い渡されたのが獄中生活の始まりだった。
中国政府は侵攻後、「チベットは帝国主義と封建的農奴制から解放され、ついに
母国に統一された。」と高らかに宣言。土地は全て没収、再分配された。
僧院も次々と閉鎖され、僧侶達は搾取階級として皆強制労働に駆り出された。
金持ちで地位もあった著者の父親は何度も村人に告発され、“闘争集会”では家族
と共に暴行を受け、長兄はその集会の時に殺されている。
囚人の中でも富裕層出身者はとりわけ厳しく扱われたが、著者はインドで政権を
樹立したダライ・ラマ14世を心の支えに不屈の精神で生き抜き、1992年に釈放
された直後極秘にインドへ逃れて亡命。
ちなみに本書の序文は、ダライ・ラマによって書かれている。
亡命後に初めて、自分がアムネスティ・インターナショナルから「良心の囚人」
に認定されていたことや、イタリアのグループが自分のために、中国当局に手紙
を書き続けてくれていたことなどを知る。
※アムネスティ・インターナショナル = 1961年に発足した世界最大の国際人権
NGOで、全ての人が人間らしく生きることの出来る世界の実現を目指している。
チベットは今や、キェンロー(反逆者)とニャムデー(協力者)に二分されている状況と
なっており、著者は今なお蹂躙され続けている祖国と同胞の解放の為に、国連人権
委員会での証言を始め様々な活動を続けている。
本書では他の囚人たちとの関りや、彼らの行く末にも言及。
同胞が自分可愛さに仲間を密告したり、恐怖ゆえに看守と一緒になってリンチに
加わるような悲しい場面も多く、大勢のチベット人が飢えや病、処刑・拷問によ
って命を落としており、自殺した人も沢山いた。
そんな最悪の環境に置かれながらも、信念を貫き互いに助け合う人達や、危険を
顧みずに仲間を助けようとする姿には、胸を打たれる。
他にも、囚人から食べ物を恵んでもらうために収容所に通うチベット人の子供の
話や、看守からの暴力の脅威にも簡単には屈しない新世代の政治囚の強さなど、
思いもよらない話に驚かされた。
著者は亡命する時、自らも苦しめられた拷問器具の持ち出しを協力者に依頼して
おり、本書にはその写真が掲載されている。
又、著者のドキュメンタリー映画『雪の下の炎』も制作されており、アマゾンで
DVDを購入できる。