ほたるBBの 絵と 本と 雑感日記

60代後半に再開したお絵描きと、読書の備忘録。考えさせられたことなども綴ります。

読書感想『私たちの仲間』(アリス・ドムラット・ドレガー)

[内容]

結合双生児の分離手術について、多くの実例を元に人々の考え方の違いや、差別、

医療裁判など様々な歴史を学び分析していくことで、正常とは何か、医療や福祉

はどうあるべきかを深く掘り下げている。副題『結合双生児と多様な身体の未来』

[感想]

著者は医学史家、大学助教授。

本書が問いかけているのは、「結合双生児は本当に異常なのだろうか」「分離手

術は必要なのか」というもので、結論から言うと「変えるべきは身体ではなく、

人々の心ではないか。」という答えが導き出されている。

 

結合双生児のおよそ3分の2は女性で、40%以上が死産、更に35%は生後1日

以内に死亡しているという。本書では大勢の結合双生児が取り上げられており、

彼らの人生や考え方が紹介されている。(何人か写真や肖像画もあり)  例えば

 

・本書表紙の少女は、結合していたもう一人が死にそうになった為、緊急の分

 離手術を受けている。写真の説明文には「一人が退院できれば、価値がある。」

 と書かれていた。

・有名な中国のチャンとエン兄弟(1811年生まれ)は、自分達を“シャム双生児

 と名付け、見世物としてアメリカやヨーロッパを旅してまわった。

 2人共結婚していて、合計22人もの子供がいたという。

・2003年、イランのラダンとラレ姉妹は歴史上初めて自ら同意して分離手術を受

 けた双子だが、手術後に大量出血で死亡している。          等々

 

日本ではベトちゃん・ドクちゃんが有名だ。彼らの分離手術は大きく報道された

ので憶えている人も多いだろう。

2人は1981年にベトナムで生まれた結合双生児。5才の時にベトさんが急性脳

 症を発症し、日本に緊急移送されて手術が行なわれるも、後遺症が残る。

 7才の時、2人共死亡する事態を避けるためにベトナムで分離手術が行なわれた。

 この時に日本人も4名医師団に加わり、医療技術を提供。(ベトさんは26才で没)

 

専門家は「結合双生児は必ず分離すべきだ。」と主張する。だが結合双生児自身の

気持ちは真逆で、「決して分離されたくない。」と言う人が殆どだそうだ。

なぜならば分離はアイデンティティに強い変化を起こす上に、手術はかなりの危険

を伴い、実際多くの子供達が命を落としている。

 

著者は、更に問題なのは「そのような手術の殆どが本人の同意を得ることの出来

ない、子供時代に行われることだ。」と指摘する。

 

しかし医師も裁判所も、幼児期にそれを治療することは、たとえ患者が死んだと

しても道徳的には尊い行為であり、だからこそ治療を行うのだと考えてきた。

それに対して著者は、“私達人間が作りだした正義”に疑問を呈し、「単生者と

同等に発育しなければいけないという考えは、押し付けでしかない。」と訴える。

 

1955年、意識のある結合双生児に対して、最初の“犠牲手術”が行なわれた。

犠牲手術 =1人を救うために、もう1人の子供を殺す。犠牲となる子供は

 再建手術に必要な臓器などの、身体組織の提供者として扱われることもある。

 

著者は言う。

「私達は正常化手術だけをいつも最善の選択だと信じたり、無理にそう思いこも

うとしているのでは。」「人々はそれを“善”だと思って差別している。」