[内容]
アウシュビッツの看守だった母親と30年ぶりに再会した娘が、母親の本音を
聞いた時の思いを綴ったノンフィクション。
[感想]
1941年第二次世界大戦中、ヘルガの母親はナチスにのめりこみ、夫と幼い子供
2人を捨ててアウシュビッツの看守となった。
それから30年後。母親が生きていることが分かり、ヘルガは不安と期待を胸
に会いに行くが、自分は優秀な看守だったと自慢する母親に耐えがたい思いに
なり、それ以来会いに行くことは無かった。
それから更に27年後。突然母親の知人という女性から手紙が来て、ヘルガは
再び母親のいる老人ホームを訪問することになる。そしてこの時に初めて、
何故子供を捨てたのか、看守時代に何をしてそれを今どう思っているのかと
質問責めにする。
本書の頁の多くが母娘の問答に割かれているのだが、母親は今もなおヒトラーを
敬愛し、ユダヤ人を憎み続け「私は無罪だ!後悔なんてしたこと無い!」と言い
放つ。
母親の話す言葉を読みながら私は、20歳を過ぎたばかりの頃に映画館で見た
アウシュビッツのドキュメンタリー『夜と霧』を思い出していた。
ガス室に向かう人々、人体実験、やせ細った裸の死体の山 等々。
全ては本物の映像で、人間はここまで残酷になれるのかと衝撃を受けたのを
憶えている。
戦争加害者としての償いの気持ちも、娘に対する愛情も無いこの母親に私が感
じたのは、不気味さと哀れだけだ。このような人間を“戦争の犠牲者”と言う
人もいるが、私には持って生まれた資質が戦争によって助長されたようにしか
見えなかった。
本書が欧米でベストセラーとなったのが頷ける内容で、どんな国にもこのタイ
プの兵士は一定の割合で存在するのだろう。今も世界のあちこちで起きている
戦争や紛争の被害報道を見ると、そう思わざるを得ない。