[内容]
生と死や、芸術から戦争までを幅広く語った小説家のエッセイ集。
[感想]
著者は医学部卒ながら、医者にはならず作家になったという経歴の人。
社会の出来事や、老いや生死についての達観した考えが綴られており、
自身が病を得た時のことも、第三者的にユーモアを交えて語っている。
私は、この人には不安を感じたり落ち込むということは無いのだろうかと
思いながら本書を読んでいたのだが、「実は私は、自分の死よりもこわいこ
とがある。子や孫達の死ぬ日のことを想像すると、自分の死よりも恐ろしい。」
と書かれた箇所を読んだ時は、著者が少し身近に感じられた。
ちなみに著者は、死後は無であり誰にも来世など無いという考えの人。
以下に、少し考えさせられたことを2つ抜粋。
『善玉・悪玉のレッテルは、正史より稗史(はいし)より貼られることが少なく
ないのだから 稗史も決して馬鹿に出来ない。』
私はこの一文を読んで、昔テレビで『忠臣蔵』の吉良家の子孫が 「ずっと
悪人の子孫と言われてきて辛かった。」 と話していたのを思い出した。
ご承知のように、あれは実話を基に創作されたもので、史実ではない。歴史
ものを観る時は、あくまで作り話として見るようにしたいと改めて思った。
『「痛いよ」とか「助けて下さい」とか叫んだら、人間はそれに動かされるのか、
無視するか。鳥や魚にその能力を与えなかったのは神の慈悲か悪意か。』
現代でもまだ「動物に精神は無く、彼らの痛みはただの神経反射である。」
と考える人達がいる。しかし鳥や魚にしても、その動きを見れば苦しんでい
る時は一目瞭然。それをどう受け止めるかで、その人の感性がよく分かる。
本書は著者が70代前半の時に書かれたもので、見識が高く、作家の世界
の出来事や四方山話も面白かった。