ほたるBBの 絵と 本と 雑感日記

60代後半に再開したお絵描きと、読書の備忘録。考えさせられたことなども綴ります。

読書感想『それをお金で買いますか』(マイケル・サンデル)

[内容]

副題は『市場主義の限界』

この地球上では、ありとあらゆるものが売買の対象となっている。

著者はその事の何が問題なのかを、多くの実例を挙げて深堀解説。

[感想]

今や民間会社が戦争を請け負い、企業や国家間で環境汚染権が売買され、

臓器の売買は公然の秘密となっている。

本書を読むとその他にも、巷ではお金さえ出せば良識もへったくれも無い

取引が横行していることに驚かされる。

 

このような現象に対して著者は、

「商品になると腐敗したり堕落したりするものがある。」

「利他心、寛容、連帯、市民精神-(略)-市場主義の欠点の一つは、こうし

た美徳を衰弱させてしまう事だ。」と警鐘を鳴らしている。

 

例えば“行列に割り込む権利”の販売は、年会費や高めの料金を支払うこと

で、空港やレジャー施設・病院などあらゆる分野で行われている。

ローマ教皇のミサでダフ屋が横行した時は、さすがに教会の役員から非難の

声が上がったそうだが。

 

料金と罰金の線引きも曖昧で難しい。

ある保育所で、親の迎えが遅れた時は罰金を取ることにしたところ、却って

遅刻する人が増えてしまったそうだ。親たちは後ろめたさを感じるどころか、

料金を払って勤務時間を延ばしてもらっていると捉えたためだ。

 

このような“逆手にとる”行為は様々な分野で起きており、たとえば自動車

のドライバーの中には、スピード違反切符を“好きな速さで運転するための

代価”だと考えている人もいるとか。

 

娯楽目的で大型動物を狩る金持ちは昔から世界中におり、本書ではクロサイ

とセイウチを撃ち殺す権利の販売について書かれている。

私も以前ネットで、我が身の安全は保障された場所で、自分が撃ち殺した動物

と共に得意顔で記念撮影をする彼・彼女らを目にしたことがある。

その行為を非難されて慌てる人、開き直る人など様々だったが、このような

魂の行き着く先は知る人ぞ知るだ。

 

第3章の「いかにして市場は道徳を締め出すか」では、多くの具体例を挙げ

て売買にふさわしいものと、そうでないものについて考察している。

例えば、好ましくない公共事業(ゴミの埋立など)を置くことへの補償金。

私立大学への高額な寄付金による入学。血液の売買。…等々。

 

第4章の「生と死を扱う市場」では、

会社が本人の許可なく社員に生命保険を掛け、遺族ではなく企業が保険金を

受け取れる制度や、余命の短い人の生命保険売買産業などについて解説。

これらの保険では、裁判沙汰になるなどトラブルが続出しているそうだが、

そもそも国がそんな保険を許可するなぞ、根本からしておかしいのでは?

 

本書ではその他にも、「広く行われているが、それってどうなの?」と思われ

る事柄が沢山挙げられている。下記はその一部。

 

・学校が共通テストで、好成績を収めた子供にお金を払う。

自治体施設・学校などに、広告を出したり企業スポンサーをつける。

・10代の少女が子宮頸がんの予防接種を受けると、商品券を渡される。

 

この世界では一体何が売買されているのか。実例が豊富なのでそれらを知る

ことで見えてくるものがあり、最後まで興味深く読むことが出来た。