ほたるBBの 絵と 本と 雑感日記

60代後半に再開したお絵描きと、読書の備忘録。考えさせられたことなども綴ります。

読書感想『君は嘘つきだから、小説家にでもなればいい』       (浅田次郎)

[内容]

単行本未収録のものを中心に編集されたエッセイ集。

[感想]

著者の作品は幅が広く、どの分野にもヒット作があり受賞も多数。

日本ペンクラブ会長他、幾つかの文学賞の選考委員を歴任しているが、遅咲き

の作家で「デビューまで30年近くも売れぬ物語を書き続けてきた」という。

 

本書は著者の自伝とも言える内容で、元々好きな作家ではあったが人間味あふ

れる考え方に、久しぶりに著者の小説が読みたくなった。

 

少し複雑な生い立ちで、9歳の時に家が没落し親類に引き取られている。

S45年に三島由紀夫が、自衛隊内でクーデターを促す演説の後に割腹自殺した

事に衝撃を受け、19歳で入隊。そこでの生活は著書の『歩兵の本領』に詳しく、

自衛隊生活で得たものは計り知れない。」と話す。

 

本書で取り上げる事柄は多方面にわたっていて、どれも面白かったが中でも凄

いのが著者の読書に対する姿勢だ。子供の時から半端ない読書量で、若い時は

好きな作家の本を模写し、複数の仕事を抱えている時でも1日に1冊は本を読

んでいるというのだから、感服の一言に尽きる。

 

ペンを執っている時間よりも、資料を読んで整理している時間の方がずっと長

いそうだが、代表作の『鉄道員(ぽっぽや)』の場合は“すべてが完全な一塊”

となって降り落ちてきたのだとか。しかも原稿は僅か2~3日で書き上げたとい

うのだから、改めてプロの凄さに舌を巻く。

 

たまに芸術家や研究者・修行者がこれと似た経験を書いているが、人は限界まで

突き詰めると、天才的なひらめきが授けられるのだろうか。

 

著者は自他ともに認める動物好きで、共に暮らしてきた犬・猫・小鳥は皆保護

したものばかり。「あらためて金なぞ払わなくとも、暮らしてやらねばならぬ動

物はいくらでもいるのである。」の言葉が嬉しい。

 

筋金入りの競馬ファンだが、競馬の醍醐味だけではなく、博徒としてのマナー

や金銭感覚の大切さも説いている。又長年馬券の帳簿をつけていて、収支を正

確に把握しているそうだが、様々なエピソードやアドバイスの中で、若者に一番

耳を傾けてほしいのは下記の戒めの言葉だ。

 

「我が身を顧みて思うに、博打は若いうちに覚えてはならない。勝ち負けに

関わらず、努力の根拠なき射幸心を抱いてしまうからである。」

 

最後に本書の中から3つ抜粋。

「才能が力とは言い難いが、不断の継続が実力となるのは確かなようである。」

「分相応は私のモットーである-(略)-だが齢相応の夢を見なければ未来はない。」

「好きなものをよい心がけで味わうという『嗜み』。日本語の傑作である。」

 

ちなみに本書の題名の「君は嘘つきだから、小説家にでもなればいい。」は、小学

生の時はやんちゃで学級の問題児だった著者に、先生が微笑みながら言った言葉

だそうだ。