[内容]
売れっ子の翻訳家が、出版業界に見切りをつけるまでの戦いのドキュメント。
副題は『こうして私は職業的な「死」を迎えた』(宮崎伸治)フォレスト出版
[感想]
軽快で読みやすい文章だが、最初は愚痴を読んでいるようで少ししんどかった。
しかし出版社側の上から目線と、次々と起きる理不尽に驚き呆れ、著者がど
んなふうに戦って“職業的な死”を迎えたのか知りたくなった。
理不尽の内容は「内容の無茶な変更や印税のカット」「出版が大幅に遅れて
印税の支払いも遅れる」「翻訳した後に出版中止」「その場しのぎの不誠実な
回答や放置」等々で、著者は交渉するも度々我慢を強いられてきた。
出版社が利益を出さなきゃいけないのは当然だが、仕事を依頼したからには、
出版が遅れようが売れなかろうが、働いてもらった分はキッチリ支払うのが
社会の常識。このやり方で、今迄どれ程の人が泣き寝入りしてきたのだろう。
作家や漫画家が、出版社や編集者に不信感を抱いた話は、ネットでも幾つか
読んだことがある。契約内容をきちんと文書にしないのが諸悪の根源だと思う
が、フリーランスの立場では強いことは言えないだろう。出版業界特有の事情
もあるようだが、本書を読むと “口約束”は出版社側の都合にしか見えない。
最後の章『そして私は燃え尽きた』では、ある出版社と裁判に至った経緯が詳
しく書かれている。調停は毎回すっぽかされ、口頭弁論では嘘を重ねられ、
最終的に著者の勝利に終わったのが救いだが、著者はその後心療内科に通う
ようになり、翻訳家の仕事を止めることを決意する。
現在は警備員の仕事をしているそうだが、今後は作家としてもいけると思う。
業界にメスを入れた本書を、敢えて引き受けた出版会社もある意味凄いかも。
本書では出版社との関わりだけではなく、自身の経験をもとに翻訳の仕事の
楽しさ厳しさなど、後進へのアドバイスも色々書かれている。