ほたるBBの 絵と 本と 雑感日記

60代後半に再開したお絵描きと、読書の備忘録。考えさせられたことなども綴ります。

『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』感想    

[内容]

売れっ子の翻訳家が、出版業界に見切りをつけるまでの戦いのドキュメント。

副題は『こうして私は職業的な「死」を迎えた』(宮崎伸治)フォレスト出版

[感想]

軽快で読みやすい文章だが、最初は愚痴を読んでいるようで少ししんどかった。

しかし出版社側の上から目線と、次々と起きる理不尽に驚き呆れ、著者がど

んなふうに戦って“職業的な死”を迎えたのか知りたくなった。

 

理不尽の内容は「内容の無茶な変更や印税のカット」「出版が大幅に遅れて

印税の支払いも遅れる」「翻訳した後に出版中止」「その場しのぎの不誠実な

回答や放置」等々で、著者は交渉するも度々我慢を強いられてきた。

 

出版社が利益を出さなきゃいけないのは当然だが、仕事を依頼したからには、

出版が遅れようが売れなかろうが、働いてもらった分はキッチリ支払うのが

社会の常識。このやり方で、今迄どれ程の人が泣き寝入りしてきたのだろう。

 

作家や漫画家が、出版社や編集者に不信感を抱いた話は、ネットでも幾つか

読んだことがある。契約内容をきちんと文書にしないのが諸悪の根源だと思う

が、フリーランスの立場では強いことは言えないだろう。出版業界特有の事情

もあるようだが、本書を読むと “口約束”は出版社側の都合にしか見えない。

 

最後の章『そして私は燃え尽きた』では、ある出版社と裁判に至った経緯が詳

しく書かれている。調停は毎回すっぽかされ、口頭弁論では嘘を重ねられ、

最終的に著者の勝利に終わったのが救いだが、著者はその後心療内科に通う

ようになり、翻訳家の仕事を止めることを決意する。

 

現在は警備員の仕事をしているそうだが、今後は作家としてもいけると思う。

業界にメスを入れた本書を、敢えて引き受けた出版会社もある意味凄いかも。

本書では出版社との関わりだけではなく、自身の経験をもとに翻訳の仕事の

楽しさ厳しさなど、後進へのアドバイスも色々書かれている。