最近、ネット俗語に親ガチャならぬ“上司ガチャ”という言葉があることを知
った。アンケートによると約6割の人が、ハズレ上司にあたったことがあると
答えていて、内訳を見ると「高圧的」「仕事が出来ない」が圧倒的に多い。
私が実家から会社に通っていた21歳の時のこと。
同じ課のМさん(30代後半男性)が、突然会社に遺書を残して失踪した。
会社の調べで分かったのは、大事な取引先から受注した製品を何かの手違い
で納品出来ず、少なからぬ損害を与えてしまっていたという事だった。
当時はまだパソコンなど無く、営業担当者にはそれぞれ専任の事務補助の人
が付いていたのだが、Мさんの仕事をしていたのが私だった。
この日から係長が私を責め始めた。
「Мの下で仕事をしていて知らなかった筈がない。いや、あんたのミスじゃ
ないのか?」「今迄の全ての取引をチェックし直しなさい!」と怒鳴られ、
それからは、夜の10時頃迄一人で事務所に残って必死に調べる毎日。
もしかしたら本当に私のせいかも知れないと、胃がキリキリと痛んだ。
それから1週間経ったある日。悲壮な顔をしたМさんが突然事務所に現れた。
そのまま会議室に向かい暫く課長や係長と話し込んでいたが、その後又事務所
に戻って、皆の前で「君は悪くない。辞めないで下さい。」と、私に深々と頭
を下げた。この時初めて私は泣いた。
しかし私は翌日には課長に辞める旨を伝え、1週間後に退職した。
本当はМさんの為にも辞めるべきではなかったと思うが、若かった私にあの
係長の下で働き続ける強さは無かった。
Мさんは人望のある人で、今回は大きな失敗をしてしまったが後輩達が課長に
嘆願書を提出した結果、県外へ期限付きの左遷となりクビは免れた。
出来る上司は部下の失敗をカバーし、𠮟るべきは叱るが育てることもする。
しかしあの係長のように、正反対の人も珍しくない。
それに対してどう対応するかはケースバイケースで、覚悟を決めて正面から
勝負するのも良し、仕事と割り切って面従腹背を貫くのも有りだと思う。
いずれにせよ辞職は最終手段で、大事なのはその経験に潰されないことだ。