[内容]
12人の日本人作家と知識人が遭遇した、其々の不思議な体験が紹介されて
いる。 (著者) 三浦 正雄、矢原 秀人 (出版社) ホメオシス
[感想]
遠藤周作や土井晩翠など、彼らが実際に書いたり語ったりした内容を、文献
や証言者の言葉と照らし合わせながら分析している。
たとえば宮沢賢治の場合は 「作品に登場する神秘体験はフィクションでは
なく、実際に山野を散策するおりに見えた様々なものを作品中に描いている。」
と結論付けており、それらについて語る本人の言葉も紹介。
晩年に自分を頼って来た異母姉の霊に、彼女の魂を救うために「死ぬまで
離れず私に取り憑いているように。」と伝えた南方熊楠の優しさと強さには
思わず唸った。人間性というのは霊体験をした時にもハッキリ現れるもので、
文豪達の体験内容もさることながら、彼らがその時それをどう受け止めたの
か、そちらの方も興味深く読んだ。
新渡戸稲造のこの言葉には深い共感を覚えた。
「あたかも理屈一方に馳せる人が宗教家を笑うて迷信者というと同じく、
その実、理屈のみにて万事を測らんとするものこそ迷信の極端に陥ったもの
であるまいか。」
霊体験をした人の多くは、それを頭から否定する人を相手に論争するほど
強くも親切でもない。又そんな事にばかり関わっている暇もないと思う。
だが私は、少なくとも自分の大切な人達にだけは、死ぬ迄にある程度自分の
体験を話しておくべきだと思っている。そしてそれをどう受け止めるかは彼ら
自身の問題なので、それ以上はとやかく言わないことだ。
他人の体験の真偽は確かめようがなく、中には勘違いもあると思うが(嘘は
論外) こうしてみると文豪達が批判や揶揄を恐れずに書いたことは、著名人
だからこそ覚悟がいった筈で、今回読み返してみて改めて凄いなと思った。