[内容]
浄土真宗の僧侶で、死刑執行に立ち会ってきた教誨師の話が綴られている。
(城山三郎賞受賞)
[感想]
本書は著者が、教誨師の渡邉普相(わたなべふそう)氏が亡くなる少し前に、
インタビュー形式で回想してもらった内容と、日誌がもとになっている。
※教誨師(きょうかいし) = 希望する受刑者に、悪を悔い正しい道を歩む
ように教えさとす人のことで、宗教関係者が多い。
自分は死刑にならなければ、これからも殺人を繰り返すだろうと語るサイコパス。
自分に死刑は執行されないと信じ込んでいた、戦後初の女性死刑囚。
子供の時から、愛情を注いでくれる人・叱ってくれる人がただの一人もいなかっ
た為に歪んでしまった男性。
上記の他 何人かの死刑囚にスポットを当て、彼らの生い立ちから殺人を犯すま
でを辿り、どのように死刑執行日を迎えたかが書かれている。
また執行に携わる刑務官の葛藤や、死刑制度についても言及されている。
死刑囚には、被害者的な恨みに捉われている人が多いそうで、ある囚人の
「先生、刑務所は更生する場じゃありませんよ。再犯で入って来た者はみんな
雑居房で、次の犯罪の相談ばかりしてますよ。」の言葉に驚かされる。
死刑囚の遺骨の多くは、菩提寺にも家族にも引き取られないことが多いそうだ。
渡邉氏は晩年アルコール依存症に苦しみ、ある時死刑囚にアル中であることを
話したら、逆に死刑囚たちが心を開いてくれるようになったことも打ち明けている。
映画の『教誨師』は、設定が牧師で本書とは内容も違うが、こちらも良かった。
一つだけ感想を書くと、「あなたがたのうち誰が私に罪があると責めうる
のか。」囚人が聖書から書き写したこのメモが、牧師の心にグサリと突き
刺さるシーンが強く心に残った。