[内容]
若き盲目のピアニスト辻井伸行氏の、誕生から12歳までの歩みと、母親とし
ての当時の葛藤が綴られている。
[感想]
2009年、辻井氏が20歳で国際ピアノコンクールに優勝した時は、彼が盲目
であることに誰もが驚いたが、承知のように彼は現在も第一線で活躍している。
著者は生まれつき目の見えない息子を、「障害者らしく」ではなく、「伸行らしく」
育てることを第一に考えてきたという。
本書は彼女の日記を元に進行していき、夫がその時々の感想を添えている。
まず幼少時のエピソードからして、普通の子とは違うことに驚かされる。例えば
・お母さんが台所でメロディを口ずさんでいたら、隣の部屋で2歳の伸行君が、
それに合わせてオモチャのピアノを弾き始めた。
・小さい時から人の話し声が音階に聞こえる。
・何年も前の年月日の曜日が分かる。 等々
幼い時から発揮されていた辻井氏の才能には目を見張るが、著者の行動力
がまた凄くて、正に母と子の二人三脚。
医師である父親の経済力と理解の他、盲目の少年をプロのレベルまで育てた
先生方の力も大きく、やはり彼は恵まれていたと思う。しかしハンデの分、
努力も半端じゃなかっただろう。
本書では、夫妻の苦悩や葛藤が飾らずに語られており、常に人に感謝する心を
持ち続けることを心掛けてる点にも好感が持てた。
ちなみに、彼が演奏の時に上半身をゆらすのはリラックスしている証拠で、あの
ウエーブを止めたら、演奏が面白くなくなるそうだ。