[内容]
第二次世界大戦後の30年間、ルバング島で兵士として生きた男性の自伝。
[感想]
著者の少し前に、28年間グアム島で潜伏していた残留日本兵の横井庄一氏が
発見されているが、テレビで見る2人の印象は全く違い、著者の眼光の鋭さに
驚きをもって見入ったのを思い出す。
著者は陸軍中野学校で、諜報員としての訓練を受けた元陸軍少尉。
フィリピンのルバング島にいる時に終戦を迎えたが、終戦を信じず数人の仲間
と共に29年間、諜報活動と攻撃を繰り返していた。
仲間の2人が殺された為、最後の1年数か月は一人きりで行動している。
ジャングルでは新聞を読みラジオも聞いていて、日本の繁栄を承知していたが、
日本政府のことはアメリカの傀儡政権だと考えていたという。著者のルバング島
での生活や中野学校の戦術などは、記録としても貴重だと思う。
島で暮らす間に多数の軍人や住民を殺傷していたが、日本政府と多くの人達
の尽力により、最後は元上官からの任務解除の口達によって帰国。
フィリピン政府は彼に恩赦を与え、州知事夫人からは「しかし、オノダは決して
女性と子供には危害を加えなかった。」というメッセージが伝えられたが、現地
住民にはかなり恨まれていたという。
著者への評価は、称賛する人と“軍事国家の亡霊”と非難する人とで大きく分かれ
るが、軍人としての責任感と強い意志には、否応なく背筋がシャンとさせられる。
しかし最初の手記を代筆した作家によって書かれた、告発とも暴露ともいわれる
『幻想の英雄』を読むと、そのイメージは全く違ってくる。真実は分からないが、
詳しく知りたい人はそちらも読んだ方が良いかもしれない。
小野田氏は帰国後に結婚した夫人と共に、ブラジルに渡って牧場を経営。
晩年は小野田自然塾 を主宰するなど日本で活動し、2014年に91歳で永眠した。