アル中の人を初めて見たのは高校生の時だった。学校から帰ると家の前に近所の
おじさんが立っていたのだが、身体はユラユラと定まらず目が据わっていた。
通り過ぎようとしたら、突然「おい、千円貸してくれ。高校生ならそのくらい持
ってるだろう。」と言われ、咄嗟に「ありません。」と言って家に逃げ込んだ。
後で母に聞いたら知る人ぞ知るアル中で、何故かその日以来姿を見なくなった。
その後もこの齢になるまで、電車の中や花見の場などで、泥酔してクダをまいた
り大声で悪態をつく男性を何度か見たことがあるが、何故あんなになる迄飲むの
か。家族はたまったものではないだろう。
夫が断酒会の会員だという知人が、テレビからこれでもかと流れるお酒のCMを
嘆いていたことがあった。酒の広告に厳しい規制を設けている国が多い中で、確
かに日本は野放し状態だ。
お酒で身体や人生を壊してしまう人の多さを考えたら、「悪いのは酒に呑まれて
しまう人間の方」…なんて言ってる場合じゃないと思うのだが。
以前囲碁を習っていた時のこと。碁会所には午後一番の空いてる時間帯に行って
いたのだが、そこで時々見かける老人がいた。その人はいつもお酒の匂いをプン
プンさせていて、先生から「昼間っからそんなに飲んでたら駄目だよ。」と注意
されることもあった。
実はこの人は知人(Оさん)の親戚で、腕の良い職人だったがアル中のために妻子
と別れ、その後病気をして今は生活保護で暮らしているのだとか。
私が碁会所に通い始めてから数年後に亡くなったのだが、Оさんが彼の息子さん
に「葬式をあげてやってほしい。」と言ったところ、遺骨は引き取ってくれたが
「母も私も酒乱の父から苦しめ続けられました。」と言って断られたという。
お酒を飲むと暴れる…という人は少なくないようで、別の知人女性は「中学の時
迄、アル中の父親からボロ雑巾のように殴られていた。」と話していた。
母親は彼女が赤ん坊の時に逃げ出して離婚。2つ年上の兄は、彼女が殴られ始め
るとソロ~ッと二階に上がって行ったという。
その後不良仲間とつるんでいた時期もあったそうだが、恵まれない人を思いやる
心は人一倍強く「自分、親に見捨てられた子だから、他人事とは思えないんだぁ。」
と笑っていた。
事程左様にアルコール中毒は心身を蝕み、家族を苦しめ、それなのにどこでも
簡単に買うことが出来るから厄介だ。