[内容]
葬儀の現場の実情と、それに携わる人達の思いや本音に光を当てたルポ。
[感想]
葬儀の専門学校に通う生徒達を皮切りに、葬儀社の社員、納棺師、復元師、
火葬場職員などに、その仕事の内容と彼等の心の内を語ってもらっている。
葬儀の意味・歴史・将来の他、エンバーミングやネットでの棺桶の買い方
など、本書に書かれている事の殆どは初めて聞くことばかりで、驚かされる
ことが多かった
※エンバーミング=遺体の防腐や消毒、外傷の修復などを目的に施術する事。
アメリカで南北戦争の際、亡くなった兵士の遺体を遺族の元に長距離
搬送する必要があったことから始まった。
様々な死に方と、凄惨な状態の遺体を復元する様子もリアルに描写されてい
たが、怖いという気持ちは起こらず、葬儀業界で働く人達の想像以上に過酷
な状況と、彼らのプロ意識・使命感に頭が下がる思いで読み終えた。
その中から幾つかを抜粋。
・疥癬(かいせん)の危険を考えて、職員は遺体には絶対に素手では触らない。
・残骨灰はふるいのような機械にかけて粉骨にし、特定の寺に運んで合祀する。
・放置状態だった遺体の死亡推定時刻は、死んだ蛆虫の量を目視して、産卵か
ら羽化まで何回転しているかによって割り出される。
「葬儀は、関西方面では被差別部落の生業とされがちだった。」
この行を読んで、映画『おくりびと』の1シーンを思い出した。
自分の夫が葬儀社で働いていることを知った妻が、夫に向かって思わず「けが
らわしい!」という言葉を放ったのだ。こんな感覚の人を私の周りでは知らな
いが、今でもこの仕事に偏見を持つ人がいるのは残念なことだと思う。
葬儀会場に故人の趣味の作品を展示するのが昨今の流行だそうで、私も人形教室
の仲間の葬儀で見覚えのある彼女の人形を見た時は、感慨深いものがあった。
但し私自身は趣味の作品の展示は望んでおらず、姉妹は皆高齢で遠方に暮らして
いるので、葬式も家族だけのお別れ会で良いと思っている。