ほたるBBの 絵と 本と 雑感日記

60代後半に再開したお絵描きと、読書の備忘録。考えさせられたことなども綴ります。

読書感想『葬送の仕事師たち』(井上理津子)

[内容]

葬儀の現場の実情と、それに携わる人達の思いや本音に光を当てたルポ。

[感想]

葬儀の専門学校に通う生徒達を皮切りに、葬儀社の社員、納棺師、復元師、

火葬場職員などに、その仕事の内容と彼等の心の内を語ってもらっている。

 

葬儀の意味・歴史・将来の他、エンバーミングやネットでの棺桶の買い方

など、本書に書かれている事の殆どは初めて聞くことばかりで、驚かされる

ことが多かった

 

エンバーミング=遺体の防腐や消毒、外傷の修復などを目的に施術する事。

   アメリカで南北戦争の際、亡くなった兵士の遺体を遺族の元に長距離

   搬送する必要があったことから始まった。

 

様々な死に方と、凄惨な状態の遺体を復元する様子もリアルに描写されてい

たが、怖いという気持ちは起こらず、葬儀業界で働く人達の想像以上に過酷

な状況と、彼らのプロ意識・使命感に頭が下がる思いで読み終えた。

その中から幾つかを抜粋。

 

疥癬(かいせん)の危険を考えて、職員は遺体には絶対に素手では触らない。

・残骨灰はふるいのような機械にかけて粉骨にし、特定の寺に運んで合祀する。

・放置状態だった遺体の死亡推定時刻は、死んだ蛆虫の量を目視して、産卵か

  ら羽化まで何回転しているかによって割り出される。

 

「葬儀は、関西方面では被差別部落の生業とされがちだった。」

この行を読んで、映画『おくりびと』の1シーンを思い出した。

自分の夫が葬儀社で働いていることを知った妻が、夫に向かって思わず「けが

らわしい!」という言葉を放ったのだ。こんな感覚の人を私の周りでは知らな

いが、今でもこの仕事に偏見を持つ人がいるのは残念なことだと思う。

 

葬儀会場に故人の趣味の作品を展示するのが昨今の流行だそうで、私も人形教室

の仲間の葬儀で見覚えのある彼女の人形を見た時は、感慨深いものがあった。

但し私自身は趣味の作品の展示は望んでおらず、姉妹は皆高齢で遠方に暮らして

いるので、葬式も家族だけのお別れ会で良いと思っている。