[内容]
知的障害をはじめ、様々な問題を抱える妻子との生活を描いたエッセイ。
[感想]
本の帯に「倒れたら即・家庭崩壊!だからパパは息だけ吸って生きることにし
た。」とある。次々と起こる大小様々なアクシデントに振り回されながらも、
妻子を大きな愛で守る姿に、終始感服しながら読み終えた。
著者(S氏)は1969年生まれで、31歳の時に結婚。一男一女に恵まれたが、長男が
5才の時に重度知的障害の診断を受け、5年後に産まれた長女にも軽度知的障害
の診断が下る。更に妻も中度知的障害者であることが判明。
妻は結婚前から恋愛依存傾向にあり、結婚後も浮気を繰り返し、何度か家出して
他の男性と暮らしていた時もあった。S氏はそれでも離婚しなかった理由を「私
は、お互い浮気ばかりで不和だった両親にほぼ育児放棄で育った分、自分の家庭
は大事にしたいという思いが強いのだと思います。」と語る。
40才の時に生活が急転した。キッカケは仕事のストレスでS氏が精神疾患となり、
妻と子供達にも抜き差しならない問題が起きて家族がバラバラに。結局家族が又
全員で暮らせるようになる迄に、1年半もかかってしまった。
ちなみに妻子には知的障害の他に、以下のような症状がある。
長男…自閉症。長女…自閉症・場面緘黙症。妻…てんかん・解離性障害。
その後S氏自身も重症筋無力症を発症してしまい、これはもう誰が見てもキャパ
オーバーなのだが、自分が仕事に行ってる間は(一時期)福祉支援課など行政の協
力を得て、家族との暮らしを続けていく。
正に“ギリギリ”の状態で、よく逃げ出さなかったものと頭が下がる。
2016年には住宅ローンが払えなくなり、マンションを売却して福島県の田舎にあ
る実家に全員で移住。自宅で病気の両親の面倒をみながらの生活となる。
2020年にYouTube「Yasu familyチャンネル」を開始。今はその収益と家族の障害
年金で何とか生活しているとか。
長男長女について、多くの頁が割かれている。
子供の頃の長男はこだわりが強く脱走癖もあったが、長男を閉じ込めたりはせず、
「知的障害を持つ子供でも、年齢と共に成長していく子は多い。」と、安全確保
が出来てやれると思えば何でもやらせてきたという。実際長男はSNSやYouTube
の動画を見て独学で言葉を覚えるなど、そんな事まで出来るのかと驚かされる事
も多く、本書は私の重度知的障害に関する思い込みを気付かせてもくれた。
長女は転校後いじめで不登校となり、小6でようやっと支援学級に移る。
ちなみにIQは69だそうで、 いわゆるグレーゾーンの手前だ。自分が馬鹿にされる
理由を正しく理解できると思われ、哀しさや辛さはひとしおだったと思う。
この子はとても絵が上手で、オリジナルキャラクターのТシャツやマグカップ等を
販売している。これも独学だというから驚きだ。ぜひ見てあげてほしい。
本書を読んだ後で、初めてS氏のYouTubeチャンネルを見てみたところ、ついこの
間(11月)自宅が全焼したという報告をしていたので仰天。
沢山の支援を受けたことに感謝し、「頑張ります」と画面にグータッチをする姿に
言葉が見つからなかったが、頼れるところは頼って頑張ってほしいと思う。