ほたるBBの 絵と 本と 雑感日記

60代後半に再開したお絵描きと、読書の備忘録。考えさせられたことなども綴ります。

読書感想『世界が驚くニッポンのお坊さん佐々井秀嶺、インドに笑う』  (白石あづさ)

[内容]

インドの仏教界でトップとなり、老いてなお人々を導く日本人僧侶の波乱

万丈な人生を、著者が現地で行動を共にしながらレポート。

[感想]

佐々井氏(令和4年現在87歳)は、普通のものさしでは測れない破天荒なお坊

さんだ。インドで仏教の復興と不可触民(カーストにも入れない最下層民)の

為に尽力してきた人で、心の軸となっているのは武士道の精神だという。

 

本書前半では、僧侶になるまでの煩悩にまみれた生活が綴られている。

若い時は祖父譲りの色欲の強さに悩み、色恋沙汰で何度も女性の心を傷つけ

てきたとか。太宰治に傾倒して自殺未遂も起こしている。

 

こんな事では駄目だとお坊さんになるべく比叡山に向かうが門前払いされ、

大菩薩峠で3度目の自殺未遂の直後に真言宗の寺に助けられる。その後は、

得度(出家の儀式)仏教系大学の聴講生タイへの留学を経てインドへ。

 

インドに渡って少し経った32才の時に、人生を変える出来事が起きる。

深夜に一人で瞑想をしていると“大乗仏教八宗派の祖”が現れ、

南天龍宮城(仏教復興運動が起きた街)へ行け」と告げて消えたのである。 

 

佐々井氏(以後“氏”)は、すぐにそこへ向かった。しかし辿り着いたその地は、

ヒンドゥーイスラム・仏教が混在するエリアで、一番低いカーストの者より

仏教徒の家は更に貧しいという現実を知ることに。

 

「僧はただ静かに座ってお経を読んでいるだけでいいのか…。」こう悩んだ末に

8日間水も飲めない断食を決行。インドでの仏教布教に捧げる人生が始まった。

 

ちなみにインドでは現在1億5千万人の仏教徒がいるそうで、彼らの多くは

不可触民が改宗したものだと言われている。

 

以下は氏の功績の一部で、その諸突猛進ぶりに何度も暗殺されかけている。

・各地に寺、学校、病院などを建てる。

・仏教最大の聖地をヒンドゥー教徒から取り戻すために、奪還闘争を行う。

・インド政府の核実験に抗議して、国会議事堂に向かってデモ行進。 等々

 

実は氏には、「こんな時、彼だったらどうするか?」と考えるほど信奉する

人物(アンベードカル)がおり、他の指導者と共に彼の思想を盛り込んだ戒律を

作り上げている。

 

アンベードカル=インドに仏教を復興した人物で、貧しい不可触民の出身だが

                              弁護士となり、後に法務大臣に就任している。65歳で没。

                              氏がインドに来たのは、アンベードカルが亡くなった12年後。

 

ネットを見ると、日本の仏教界では氏を批判的に見る人も少なくないようだ。

理由としては、不可触民の地位向上の為に宗教活動の枠を超えている、既成の

宗教団体を批判している、聖人君子とは程遠い言動、等が挙げられている。

確かに僧侶としては正統派ではないかも知れない。しかし氏の功績までは否定

出来ないのではないだろうか。

笑いの効用と作り笑いの落とし穴

私はブログにはシリアスな事を書くことが多いが、実生活ではよく笑う方

だと思う。笑う対象は大体、飼猫と動物系のYouTubeそして同居の3男だ。

 

ヤムチャ(猫)は息子がパソコンに向かうと、わざわざモニターの真ん前に来て

座ってしまうことが多いのだが、そんな時に息子はよく猫相手に説教を始める。

口調はその日の気分で、昭和初期の役者風だったり、旅館の女将風だったりと

色々だ。

 

息子は年に何回かアマチュア劇団の演劇に参加しているせいか、その物真似

がどれも面白くて、特に柄本明の芸者コントには毎回爆笑。

 

笑いには、免疫力が高まる、脳が活性化されるなど健康面で色々な効果があ

ると言われる。私の身体はあちこちガタがきてるが、それでもまだ笑った後

で体調が少し良くなったと感じることは少なくない。

 

私が初めて笑いの効果に驚いたのは、47歳で子宮摘出手術をした時の事だ。

手術の後、最初の食事が運ばれてから丸1日経っても、まるで拒食症のよう

に飲食が出来ずにいた。食欲が無いとか吐き気がするとかではなく、無理や

り食べ物を口に入れても、どうしても飲み込めないのだ。

 

ちょうどその頃お見舞いに来てくれた知人に、私は自分の不安な気持ちを吐露

した。しかしその人は「大丈夫、二重顎はそのままだから。」と言って笑った。

 

最初、何を言ってるのか分からなかった。私は平均体重だし、しかも今はやつ

れてる筈。しかし「そっか、私は二重顎なのか~。」と、その顔を想像した途端

に噴き出してしまい、暫し爆笑。

 

で、笑い終わったところで知人がすかさず、私の口にポンとお菓子のかけらを

放り込んだ。ビックリしながらも、私は思わずそれを飲み込んでしまい、それ

をキッカケに普通に食事が出来るようになったのだ。

正に笑いは百薬の長、笑う門に福来たるだ。

 

無理に声を出して笑わなくとも、人と笑顔で向き合うことで場の雰囲気が良く

なり、お互いの免疫力もアップすると言われる。

但し作り笑いには要注意で、“スマイル仮面症候群”に陥ることがあるそうだ。

礼儀や処世術として作り笑顔を演じている内に、自分の感情を正直に吐き

 出せず、深刻な状態でも笑顔で話すようになる。

これはある種のストレスの症状で、心身に負担をかけている状態だという。

 

生きていれば老いも若きも関係なく、大なり小なり嫌な事、しんどい事、悲

しい事を経験させられるのが世の常。時には感情に蓋をせず、自分の気持ち

を正直に表すことも大切なようだ。

読書感想『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン)

[内容]

スマホによって若者たちが蝕まれている現状と、その原因・対処法を解説。

[感想]

著者はスウェーデン精神科医で、本書は世界的ベストセラーとなった。

 

人間の脳は、狩猟採集民として生きた大昔のまま変わっていない。そのため

急激に普及したSNSに正しく対応できず、様々な弊害が起きているという。

 

若者達はスマホを手放すことが出来ず、統計によると1日に平均4時間は見

ているそうで、これは脳の報酬系がハッキングされてしまうためだとか。

※脳の報酬系 = 欲求が満たされた時や、満たされると分かった時に活性

        化し、元気ややる気を引き起こす神経ネットワークのこと。

 

しかしスマホを過剰に使うと、記憶力・集中力・学力の低下、睡眠障害

うつ、スマホ依存などが起き、周囲の人にあまり関心が持てなくなるという。

本書ではそれらについて詳細に解説されており、その中から一部を抜粋。

 

◎脳が自分では覚えようとしない“グーグル効果”と言われる現象が起きる。

◎読書はタブレット端末よりも、紙の書籍で読む方が内容を覚えている。

◎“ながら”で勉強する人は多いが、このようなマルチタスク派は集中する

  ことが苦手で、長期記憶能力にも悪影響が出ている。    等々。

この他、心身の健康問題についても多くの頁が割かれている。             

 

驚くのが情報を提供する側のやり方だ。SNSなどの企業の多くは専門家を雇っ

て、いかに効果的に脳の報酬系をハッキングするかを研究し成功をおさめてい

るという。

 

中でも下記は有名で、多くの人が“うざい”と嫌っている。

SNSのプッシュ通知やチャットの着信音がどれも似たような音なのは偶然で

はなく、情報の洪水の只中に巧妙に広告を出して購買意欲をくすぐっている。』

 

次の話はもっと凄くて「こんな事までしてるのか…。」と引いてしまった。

フェイスブックやインスタグラムは、親指マークやハートマークがつくのを

保留する。そうやって、私たちの報酬系が最高潮に煽られる瞬間を待つのだ。』

 

IТ企業トップ達は、我が子には十代半ば頃迄こうした機器を与えないか、又

は厳しく制限していたそうだ。スティーブ・ジョブズ然り、ビル・ゲイツ然り。

又、フェイスブック(新社名「メタ」)の「いいね!」の開発者は、「SNS

依存性の高さはヘロインに匹敵する」と話していたとか。

 

ではスマホの弊害から身を守るにはどうしたら良いか。

研究の結果それは既に分かっていて、最善の対抗策は散歩やランニングなど

運動をすることだそうだ。運動には各種の衝動を抑える力があり、知能にも

良い効果を与えてくれるという。

 

とは言え、スマホが便利で重宝する機器であるのは間違いないことで、また

本書に書かれている弊害が誰にでも起きるわけでは無い。

親としてすべき事は、まずは子供に与える時期をよく考え、使い方をきちんと

指導してルールを決める。与えっ放しはNGということだ。

非常時にどこまで他者を気遣えるか

先の大戦の時のこと。外出先で空襲に遭った私の母が、周りの人達と一緒に

防空壕に逃げ込んだら、先に中に入っていた中年女性から「ここはあんたの

場所じゃないから出なさい!」と追い出されそうになったという。

(防空壕は場所によって、入る人が決められていた。)

 

その時傍にいた老人が女性を一喝してくれたおかげで、母はそのままそこに

留まることが出来たそうだが、出て行けと言うのは死ねということ。よくも

そんなことが言えたものだと思う。

 

非常時は皆自分達のことでいっぱいで、他人を気遣う余裕の無いことが多い。

中には感動するような素晴らしい行動をとる人もいるが、あまりにも身勝手

でヒンシュクを買ったなんて話も少なくない。

 

災害などの非常事態において、自衛隊や警察・消防が人命救助をする際は、

多数の人命を救うことを目指して救出の順位が決められている。

しかし、全員が助かると分かっている場合は弱い者優先でも良いが、そうで

はない時にも高齢者を優先するのはおかしいという声がある。

 

その意見については、高齢者の私でもその通りだと思う。それに、自分のせ

いで後回しにされた若者が命を落としてしまったら、只々辛いだけだろう。

しかしいざという時に自分がどういう行動に出るか、全く自信は無い。

助かろうとしてもがくのは生存本能によるものだから、パニックに陥る可能

性もある。その時は私の今のこの思いが、きれいごとで終わらぬよう祈るし

かない。

 

また、優先順位をつけるということは、救助活動を行う人にとっては過酷な

決断を強いられるということであり、その重圧は計り知れない。誰かを見捨て

た苦悩は死ぬ迄続くだろう。そういう意味でも、残された者は彼らを非難する

ような言動は慎みたいと思う。

 

最後にペットの救助について。以前は災害時のペットの扱いは酷いものだっ

た。しかし今、少しずつではあるが受入れ体制が進んできており、今後更に

充実することを期待したい。

読書感想『瓦礫の中から言葉を』(辺見庸)

 [内容]

3.11大震災と原発事故を中心に、災害時のメディアの在り方などを考察。

副題『わたしの<死者>へ』

[感想]

著者は宮城県石巻市の出身で、この本を書いた時はウツを患っていたという。

そのせいかは分からないが、以前読んだ著者の「もの食う人々」と違い、途中

何度もつっかえながら読んだ。

※「もの食う人々」= 講談社のノンフィクション賞を受賞。お勧めの1冊です。

 

本書のテーマとして「言葉と言葉の間に屍がある」「人間存在というものの

根源的な無責任さ」の2つが挙げられている。

何だか難しい表現で私にはよく理解できないが、本書に書かれていることの

多くは共感できる内容で、原発事故の時のマスメディアの姿勢の空々しさや、

ACジャパンのCМについての辛口な考察も面白かった。

 

「膨張する一方の投機マネーは、じつのところ戦争を待ちのぞんでいやしな

いか。」…この言葉で、昨年亡くなった経済評論家の内橋克人氏が、ヘッジフ

ァンドが台頭し始めた時に彼らのことを“経済界のならず者”と評していたの

を思い出した。その後の動向を見ると、中には戦争を待ち望む人がいても

不思議はない気がする。

大きな天災が起きると、それを天罰だという人がいる。それに対して著者は

「これは天罰でも天恵でも有り得ない-(略)-死者たちへの礼にも欠けます。」

とバッサリ。

 

天罰派は又「神の心は計り知れない」「彼らは死後に救われている」などと

言うが、罪の無い人々を罰して殺すのが“神”である筈が無く、そのような

考え方は著者が言うように犠牲者への冒涜だろう。

 

本書を読んだ後に、著者のブログを読んでみた。

記事が短くて読みやすいのと、ピリ辛な内容が多い中で飼い犬に対する思い

もさりげなく書かれるなど、著者の人柄の感じられる面白いブログだった。