ほたるBBの 絵と 本と 雑感日記

60代後半に再開したお絵描きと、読書の備忘録。考えさせられたことなども綴ります。

九十歳。何がめでたい (佐藤愛子) 小学館

[内容]
著者の、最後となるかもしれない辛口エッセイ集。
[感想]
著者の怒り・嘆きの底には、人としての真っ当な心と温かさがあり、何度も
うなずき、笑いながら読んだ。

 

家出少女にコロッと騙されてお金を盗まれた話。別荘の前に子犬を捨てられ、
「ハラワタが煮えくりかえった。」と怒りながら、結局東京に連れ帰って
天寿を全うするまで一緒に暮らした話。
他に、幾つかの人生相談とその回答に関する感想や、テレビのつまらなさに
ついて等々、色々な問題について語っている。

 

その中で印象深かったのが、「戦中の恐ろしいまでの静寂-(略)-色々な音は
我々の生活に活気がある証拠。」という言葉で、子供の声のほか町中の生活音
にまで、騒音として苦情を入れることを諫めている。

 

また、幾つかの判例を挙げて、「司法は人間性を失った。情を捨て、観念の
バケモノになった。」と嘆いており、その中でも驚いたのが下記の事件だ。

 

「校庭で6年生の少年の蹴ったボールが、校門の扉を超え、丁度オートバイ
で走っていた老人がそれをよけようとして転倒した。」
老人は足を骨折して入院し、1年4か月後に肺炎で死亡。そのことが少年の
両親の監督不行き届きとして認められ、高額の賠償を命ぜられた。

 

結局11年後に最高裁によって判決が覆り、著者は「この国の司法にもまだ
良識が生き残っていた。」と書いている。
これらの話を読んで私も、日本もアメリカのように莫大な懲罰的損害賠償が
当たり前になる日が来るのでは…とちょっと不安を感じてしまった。