ほたるBBの 絵と 本と 雑感日記

60代後半に再開したお絵描きと、読書の備忘録。考えさせられたことなども綴ります。

流れる星は生きている  (藤原てい) 中公文庫

[内容]
敗戦後、3人の幼子を抱えて満州から引き揚げて来た母親の実話。
[感想]
著者は作家新田次郎の妻で、本書はベストセラーとなった。

 

昭和20年8月9日。引き揚げが始まった時、著者の上の子達は6才と3才、
末っ子はまだ乳飲み子で、夫はソ連軍の捕虜となっていた。

 

数十名ずつに分かれての逃避行で、長く険しい山道や川を、病人も子供も
ただひたすらに歩き続けた。
赤ん坊は下痢続きで、おまけにお腹を空かせてるのに乳が出ない。
健気な長男や「もっと食べたいよう」と泣く次男の様子に、もし私ならと何度も
本をめくる手が止まった。

 

敵の襲撃以外にも、飢えや病気、引揚者間の争いや絶句するような意地悪。
軍の家族は私物を沢山持っていた。子供の為に飲み水が欲しいのに、水で
顔を洗って捨ててしまった若夫婦、若い継母が連れ子を虐待餓死させてしま
う事件など、エゴと無神経と理不尽が横行する。

 

綺麗ごとでは決して生き残れない状況が、ひしひしと伝わってきて、
医者が、ジフテリアにかかった次男の治療費の代わりに、時計を高く買い取って
くれた時は、私の口からも思わずお礼の言葉が出た。

 

著者は引揚者の中でも際立つ極貧で、あまりにも過酷な状況に、無事に故郷の
土を踏んだ時は、よくぞ一人も死なせずに帰ってきてくれたと、胸が熱くなった。 

 

以前読んだ、7歳の女の子目線で綴られた『チャーズ』(遠藤誉)も 衝撃的な
内容で、満州からの引き揚げの様子を知りたい方には、そちらもお勧めだ。