[内容]
“アラブの春”の渦中の数年間を、エジプトで家族と共に暮らしたイスラム研究者
のノンフィクション・エッセイ。 副題『わたしが見たふたつの革命』
[感想]
著者が2011年に、夫の赴任で1才の娘と共にエジプトに移り住んだのは、29年間
続いたムバラク政権が崩壊した直後で、国は混乱していた。
翌年、ムスリム同胞団出身のモルシ大統領が就任するが、軍により1年で解任。
その翌年には軍出身のシシ大統領が就任して、その政権は現在も続いている。
本書の半分はエジプトでの暮らしを綴ったエッセイで、厳格なイスラム教徒である
専属の運転手を始め様々な人達との交流等、イスラム教国ならではの面白いエピソ
ードが沢山紹介されている。しかし本書の特異な点は、エジプトの2つの革命を目
の当たりにした日本人が、それをイスラム研究者及び女性の目線で解説・考察して
いることだろう。(以下、長くなるのでエッセイの部分は割愛。)
当時エジプトでは何度も、大規模な国民のデモが起きていた。混乱が続く中、ガ
ソリン不足・頻繁な停電・物価の高騰・失業率の上昇等で、人々の生活は逼迫。
暴動も頻発し、警察が政権に抗議して任務を一時ボイコットするなどで、治安が悪
化。言論弾圧やキリスト教徒に対する殺害事件が幾つも起きた。それでも子供達は
学校に通い、人々は逞しく生活しているのも凄い。
西側諸国(日本含)はシシ政権を軍事クーデターだと批判したが、著者は「革命を
目の当たりにしたものとして、その意見に心底嫌悪感を覚える。」と強く反発。
著者はエジプトで、何人かの指導者へのインタビューに臨んでいる。それは緊迫し
た雰囲気の中で行われ、例えばジハード主義者のムルガーン師の場合は、スカーフ
を被っただけの著者を見ていきなり「お前はアウラだ。」と言い放ち、インタビュー
では「ジハードは全て不正なる敵の攻撃に対する報復だ」と断言した。
※アウラ=「隠さなければならない恥部」という意味
ちなみにムルガーン師は後に、反乱を企てたとして逮捕され獄中で病死している。
著者はイスラム教の既婚女性の服装に関して、以下のように述べている。
「イスラム法のルールは顕著に家父長的であり、男たちは女性を守るという建前上
の理由によって、全身を黒布で覆い隠す服装を強いたり、隔離といった女性差別
を正当化している。」
ちなみにアラブ・イスラム諸国は、セクハラが多いことで有名だそうだ。
アラブの春では、多くのエジプト人が“民主化”と “自由”を望んだ。
しかしイスラム教徒が考えるそれは、言葉は同じでも西側諸国とは全く違い、
“神のみが主権者であるイスラム教を正しく信仰するためのもの” だという。
エジプト人の5人に1人はスラムに住んでいるそうで、その実態にも驚いた。
著者がその一つを訪れた時の様子が紹介されている。下水道設備が無く不衛生・
極貧・近親婚・犯罪が多発…等、ゴミで埋め尽くされていたというその暮らしぶり
に、子供達のことを思って暗澹たる気持ちになった。
最後に著者の解説の中から2点抜粋。
「エジプトにおけるテロとの戦いの対象になっているのは、主に“イスラム国”と
“ムスリム同胞団系武装組織”です。」
「“武装組織イスラム国”にとって、日本は勿論全ての国家が敵なのです。」