[内容]
境界知能の特徴と、身近な事件や教育現場の現状、国内外の研究と歴史、近年の動
向を解説。
[感想]
著者は 児童精神科医で、精神科病院や医療少年院等に勤務。現在は立命館大学教授。
入門書のつもりで読み始めたが、中盤は文献か教科書のようで挫折しかけた(この
辺は流し読み^^;)。但しそれは私が素人だからであって、関係者には勉強になる内
容だと思う。それ以外は期待通りで、興味深く読んだ。境界知能の特性については
軽度知的障害との比較で説明されていて分かり易かった。
境界知能とはIQ70〜84辺りを指し、人口の約14%が該当。(意外と多い)
同年齢の人に比べて知的能力・精神年齢が7〜8割程度のため、学習・仕事・対人
関係などで困難を抱えやすい。
境界知能は、かつては知的障害に含まれていた。しかし1978年に「境界知能児は
原則として一般学級で留意して指導するように」という文部省の通達により変更。
それまでは特殊学級で学んでいたような子も、普通学級に通うようになった。
そのためそれ以降は、彼らに必要な支援や配慮が届いておらず、大人になっても生
き辛さを感じている人は多いとみられる。
本書は、内容を4つの章に分類して解説されている。
第1章 何故境界知能に注目すべきか …境界知能が絡んだ近年の事件の考察と、
子供達が学校でも境界知能と気付かれない実情・社会での様子。
第2章 これまでの取り組みについて …これまで論じられてきた国内外の、境界
知能をめぐる問題や歴史的経緯を、軽度知的障害と絡めながら解説。
第3章 境界知能の具体的な特徴について …記憶・言語・学習他、8つの事柄につ
いて解説(とても参考になる内容)。項目毎に“具体的支援の方向性”
としてまとめられていて、分かり易かった。
第4章 境界知能の国内の動向、海外の研究動向、国際会議などについて紹介。
著者は境界知能の人が起こした幾つかの事件について、「障害があるからといって
犯罪が許されるわけではない。」と断りを入れながら、被告の特性が理解されずに
判決が下されたり、冤罪が起きたりする状況に疑問を呈している。
一般に境界知能の人は学校を卒業しても、生活や仕事に支障をきたし問題を起こす
ことが多いそうで、例えば刑務所にいる人達の約4割が境界知能に相当するとみら
れている。但し犯罪を起こすのは、知能障害そのものよりも環境要因が大きく、む
しろ“被害者”として巻き込まれることが多いので、家族や周囲の支えは大切と。
本書では、知能一般の定義、軽度知的障害・発達障害・学習障害等についても解説
されており、国内外の知的障害教育のこれまでの取り組みが紹介されている。
只、境界知能に関しては独自に研究されることは殆ど無く、各論の十分な検証もさ
れていない為不明な点が多く、今後の課題だという。
それでも、必要な教育と訓練が受けられれば、知的障害者も境界障害者もゆっくり
ではあるが確実に成長する。著者は、“少しでも早く手立てをすること” “どうして
そんなことをするのか、彼らを理解すること”… これらの重要性を示している。
あと、以下のことに関しても心に留めておく必要がありそうだ。
「IQ値は様々な要素により数値がブレるため、検査値とその解釈には注意が必要。」
「実生活を生きる上では、知能検査で測れる以外の能力も多々あり、それも併せて
みていく必要がある。」