[内容]
過酷なノルマにパワハラ、詐欺など、郵政の実態に迫るルポルタージュ。
[感想]
著者は西日本新聞社デスク。日本郵政を巡る取材と報道により、数々の賞を受賞。
日本郵政グループは日本郵政を持ち株会社として、主に日本郵便・ゆうちょ銀行・
かんぽ生命で構成されており、その他にも不動産など幾つかの子会社が存在する。
西日本新聞社への内部告発は、新聞に「郵便局員達がハガキの販売に過剰なノル
マを課せられ、自腹で購入している。」という記事を出した直後から始まった。
全国から沢山の情報が寄せられ、その数は3年で1000件に達したという。
本書ではそれらの詳細と顛末が綴られており、以下に主要な事例を3点抜粋。
[詐欺まがいの生命保険販売]…主なターゲットは高齢者で、乗換契約・多数契約な
どで、多くの局員が処分される事態に。局員による自腹契約やカラ契約も発生。
[配達現場に時短を強いる厳しい指導]…自殺者が出て裁判沙汰になったケースや、
民間の下請けに対するイジメもあり、内容を読むとその酷さは半端ない。
[ハガキや物販の自爆営業]…インターネットの普及などで郵便物が減り続けたため、
局員に年賀ハガキ、ゆうパック等を大量に買わせていた。
これらは全て過酷なノルマとパワハラがセットとなっており、精神を病んだ人や郵
便局を辞めた人は沢山いたという。しかし経営側の当事者意識は低く、声を上げた
局員は潰された。著者は「いまだに役所体質の悪弊が色濃く残っている。」と批判。
ちなみに郵政の民営化は、2007年に小泉政権下で“経営の健全化・効率化・経済の
活性化”を目標に実施されたものだが、ネットには「2009年に発足した民社国連立
政権による“見直し”によって骨抜きになった。」との意見が散見される。
※民社国連立政権とは、民主党・社会民主党・国民新党による連立政権のことで、
国民新党は郵政族と深く関連していたと言われる。
民営化の結果は理想とは程遠く、料金は次々と値上げされ2021年には土曜日の配
達業務が廃止されている。そんな中で一貫して変わっていないのが郵便局の数で、
著者は “局長会という闇の存在” に大きな問題があるとして、焦点を当てている。
郵便局には ①大規模郵便局 ②少規模郵便局 ③簡易郵便局の3種類がある。
この内②の小規模局(約19000局)の局長たちで組織されているのが“局長会”で、
これは法的な位置づけの無い“任意団体”だとか。
私が本書で一番驚いたのが、この少規模郵便局のルーツと、今も変わらない姿だ。
「明治時代全国に郵便局を設けるため、地域の名士や地主から建物を無償提供して
もらったのがルーツ。その身分は特別扱いで、転勤は無く子どもや親族が後を継
ぐ“世襲”が殆ど。これは2007年の郵政民営化後も容認されている。」(世襲は減)
この小規模局の局長たちが、1953年に結成したのが“全国郵便局長会”だ。
本書ではこんな説明が続く…「局長会の反発により合理化には一切 手を付けられ
ず、巨額の維持コストを背負ったまま、それを補うために現場には重い営業ノルマ
が課せられ、人件費を削減するための厳しい労働管理が行われている。」
しかし会社は局長会にはものが言えない。そんな“治外法権”のような力関係で、本
来は会社が持つべき局長に対する人事権も、実質的に局長会が握っているのだとか。
局長会が政治活動の一環として、顧客に配る為に会社の経費で作ったカレンダーは、
3年間で総額8億円。これに関しても、国会での答弁を含めて詳細に解説されている。
福岡県直方市の郵便局長によるパワハラ裁判についても、多くの頁が割かれている。
詳細は割愛するが、これも内部通報者達への恫喝はヤクザ顔負けの酷さで、よく泣
き寝入りせず頑張れたものだと思う。最終的に勝訴したのが救いだ。
ネットを見ると、郵政民営化の功罪について様々な立場の人が意見を述べているが、
著者の言うように一筋縄ではいかない難しさがあるようだ。