10年程前のこと。近所に住む奥さん(60代前半)が、仕事を辞めて昼間3才の孫
を預かるようになった。母親である娘さんは10代の時に奨学金で准看護師の資格
を取り、卒業後は関連の病院で働いていたが、このほど働きながら正看護師の資
格を取る為の勉強を始めたのだとか。やや疲れ顔の奥さんに「体力いりますね。」
と言ったら、「きついけど、娘が可愛いからですよ。」と笑った。
貸与型奨学金は教育ローンと違い、学生本人が借り入れ、返済も本人がする仕組
みとなっている。統計によると2024年度は学生の半数以上が何らかの奨学金を利
用しており、日本学生支援機構(JASSO)の場合、借入総額平均は350万円弱だっ
たそう。
2015年に自治体による“奨学金返還支援制度”がスタートし、2021年には企業によ
る “奨学金代理返還制度”が始まった。後者は企業が従業員に代わって、奨学金の
一部または全額をJASSOに直接返還するもので、近年この制度を導入する企業が
急増しているそうだ。作年は東京都が、最大150万円まで肩代わりする制度を導
入しており、これにより各地の自治体でも更に導入が広がっているという。
ネットには、“奨学金代理返還制度”の解説と共に、企業・従業員双方のメリットが
挙げられており、奨学金返済がスタートする新卒の若者にとっては何と有難い制度
だろうと思いながら読んだ。しかし同時に、冒頭の準看護師さんのことが頭に浮か
んだ。彼女が関連の病院で働いていたのはいわゆる“お礼奉公”で、中身こそ違うが
奨学金代理返還制度にもそれと重なるものを感じたからだ。
看護師さんの“お礼奉公”に関しては、色々問題点が指摘されているが、それでも
彼女達の場合は自分が勉強してきた希望の職種に就いている。
しかし新卒の大学生が代理返還制度を利用した場合、就職後にこの仕事は自分に合
わないと気付いても、すぐに他の業種に転職するのは難しいという。何故なら、中
途退職すると支援が打ち切られるだけではなく、会社から返済した分の返還を求め
られることもあるからだ。
あと、どうしても否めないのが不公平感で、例えば以下のような指摘がある。
・同じ条件なのに、対象外とされた人は?
・JASSO以外から奨学金を借りた人は?
・奨学金を借りずにアルバイトで頑張ってきた人は?
・中途採用のため、制度の対象とされなかった人は? 等
中には仕方のないケースもあるが、モチベーションが下がるのは当然で、それを理
解が足りないとか、やっかみなどと言うのはちょっと違うと思う。
正社員と非正規社員の間の、不合理な待遇差が少しずつ是正されてきたように、こ
の制度にも改善の必要がありそうだ。
ちなみにこの制度では、返還支援分は給与に含まれないため、所得税・住民税・社
会保険料は増加しないなどのメリットもある。なので「この会社で頑張っていこう。」
と思ったら、有難く利用させてもらったらいいと思う。
(問題点を指摘する人達も、この制度自体を反対しているわけではない。)
但し、良い条件には“縛り”があるもの。会社はボランティアではないので、その
覚悟と「こんな筈じゃなかった。」なんてことにならぬよう、“支援額は幾ら迄か、
返済には何年かかるか、会社を辞めたらどうなるか” 等、下調べはしっかりと。