[内容]
長年地域の医療を支えてきた医師が、疲弊した医療制度の実態とその原因を解説し、
医療業界は今後どんな事態に陥るかを予測。
副題『下町病院長だから見える医療の末路』
[感想]
著者は脳神経外科医で、中規模病院の院長。認知症や介護に関する著書多数。
本書で著者は、実体験と多くのデータを基に以下のように予測・警告している。
◎高齢者人口は、2040年にはピークに達する。医療業界は既に人手不足に陥って
いるが、それが更に進み、特にホームヘルパーは深刻な人手不足となって、適切
な介護を受けられずに死ぬ高齢者が増えるだろう。
◎現在健保組合の支出の4割以上が高齢者の為に使われている。今後は組合の破綻
や解散が増え、協会けんぽに移る企業が増えるだろう。
※協会けんぽ=多くの中小企業が加入している、日本最大の公的医療保険。
◎診療報酬の頭打ちのため、高齢者医療を支えてきた中規模病院が、次々に破綻し
ている。現行制度のままであれば、民間の中小病院はさらに潰れていくだろう。
他に、救急車の有料化、手術の長期待ちで手遅れになる人が増える…等々。
病院は、(基本的に)2年に1度改定される診療報酬に翻弄されてきたという。
一例を挙げると、「急性期の入院基本料は、15日目以降は加算額が減る設定になっ
たため、患者は2週間で退院させられる事が多い。」…といった具合だ。
何故こんな事になっているのか。皆保険制度と診療報酬制度の成り立ちと仕組みの
解説の後、厚労省のやり方の何が駄目なのかを、多くの実例を挙げて厳しく批判。
例えば、「制度を作っていて、そこに病院が群がって医療費や介護保険給付費が膨
張すると、その報酬を得られる項目を削除してはしごを外す。」…等々。
以下は著者が指摘する“医療制度の罪”だ。(それぞれ本書で詳細に解説。)
- 病院経営への民間企業の参入を阻むがんじがらめの法律
- データに基づかずに思い付きで進められているとしか思えない医療政策
- 弊害のある投薬が野放しになっている
- 悪徳病院も質の高い医療を提供する病院も一緒くたになっている
- 病院より診療所の開業医を優遇している政策
(病床が20床未満であれば診療所、20床以上あるのが病院。)
「日本の医療沈没を防ぐ処方箋」の項目では、電子処方箋・ロボット手術・中
小の民間病院のチェーン化…等、多くの提案と意見が述べられている。
この他「介護業界と福祉施設の実情」「医療界の闇」「海外の医療制度の紹介と日
本との比較」等の他、著者の病院が経営破綻に追い込まれた時の事も詳しく書か
れている。
本書を読んで、厚労省が病院経営に与える影響の大きさに驚かされたが、もう一つ
タイプ別に解説された認知症の実例もちょっとした衝撃だった。
どのケースからも周囲の大変さが伝わってきたが、中でも “前頭側頭型認知症”患者
の想像を絶する自分勝手で乱暴な様子には、「もし自分が認知症になっても、これ
にだけはなりたくない。」と思ってしまったほど。
いずれにせよ “あふれた高齢者の入院先や居場所が大幅に減少する” という著者
の予測は既に始まっているようなので、高齢者は覚悟した方が良さそうだ。