[内容]
透析患者の凄絶な終末期と、医療現場の実状を語ったノンフィクション。
『私たちは必死に生きた。しかしどう死ねばよいのか、それが分からなかった。』
[感想]
著者はノンフィクション作家。受賞作多数。
著者の夫は38才から血液透析を始め、50才の時に母親から腎臓移植を受けるも、
59才で再び透析に戻り1年余で逝去。元々人が死ぬ時は、大変な肉体的苦痛を伴う
ものだが、彼の終末期は人一倍苦しみに満ちたものだった。
※血液透析=重い腎臓病の患者の血管から血液を取り出し、人工腎臓装置を通して
血液中の老廃物・余分な水分を除去し、きれいになった血液が再び体内に
戻される。透析には4 ~5時間かかり、基本的に週に3回の通院が必要。
第一部では闘病の様子が克明に語られており、第二部は夫の死後、多方面への取材
で知った医療業界の実態と、腹膜透析・緩和ケアについての解説となっている。
日本で維持透析を受けている患者は34万人を超え、日本の腎不全医療は世界トップ
レベルとされているが、「意識を失っても、寝たきりになっても、認知症を患おうと
も」死の瞬間まで透析が続くことが殆どで、終末期医療は立ち遅れているという。
ちなみに緩和ケアを受けられるのは “癌患者”だけだそうで、私はこのことを全く知
らなかったのでこれも衝撃だった。
この感想文では、闘病の詳細は割愛するが、その内容は想像を絶する厳しいものだ
った。著者は毎回夫の透析に付き添い、合間に治療や介護の事を色々調べ模索し続
ける。しかし納得できる答えをくれた医師は一人もおらず、そんな状況でも夫婦共
にギリギリ迄仕事に取り組む姿は感服と共に驚きでもあった。
後半は、“腹膜透析”に関しての詳しい解説が続く。
腹膜透析は昔からあるシンプルな方法で、在宅で透析が出来るのが特徴。
更に血液透析と違い、不要に苦しむことなく最期を迎えられるなど、様々な利点が
あるという。(本書では多くの事例が紹介されている)
そんな良いものなのに、何故浸透していないのだろう。
一つは、感染症に弱いというイメージが定着している為、医師・患者双方に偏見が
あること。そしてもう一つの理由として、次のことも無関係では無いようだ。
「血液透析機器の台数が多く、国内全ての患者が血液透析を選んだとしても、ベッ
ドは73%しか埋まらない状態にある。」
医療体制に不信感を持っていた著者だったが、調査を進めるうちに“腹膜透析”の
未来に光が見えてくる。以下に、著者が感銘を受けた人達を一部抜粋。
- 故郷に自力で泌尿器科と緩和ケアを両立された病院長
- 透析患者のために新たな体制を打ち上げた大学教授
- 終末期の患者の為に、ゼロから地域医療を構築した医療関係者・介護事業者
問題点として挙げられていたことも、3点だけ。
◎日本の透析界で、腹膜透析は2.9%。在宅医療を支える体制が整わぬ地域が多い。
◎都市部では小さな維持透析クリニックが乱立し、終末期になると大病院に搬送し
て終わりという状況である。
◎透析には約500万円/年の公費がかかる為、透析患者への誹謗中傷があふれている。
本書の反響も踏まえての事だろうか、ひと月前にこんな発表があった。
「近年、腎不全患者の緩和ケアの体制整備を求める世論が高まっている状況を受け、
日本透析医学会は、日本緩和医療学会、日本腎臓学会と3学会合同で『腎不全患
者のための緩和ケアガイダンス』を作成しました。」