ほたるBBの 絵と 本と 雑感日記

60代後半に再開したお絵描きと、読書の備忘録。考えさせられたことなども綴ります。

読書感想『貧困と脳』(鈴木大介)

[内容]

長年貧困に陥る人々の取材をしてきた著者が、自身の脳梗塞の後遺症により、“働

けない脳”と、かつての取材者との共通点に気付き考察を重ねる。

副題『「働かない」のではなく「働けない」』

[感想]

著者は文筆家で、ベストセラーの『最貧困女子』は代表作。

 

働かずに貧困に陥り、その結果多額の借金を背負ったり、売春や犯罪に手を染めて

しまう人達がいる。彼らと、著者が取材した他の多くの最貧困の人達の共通点は、

「浮き沈みが激しく、言う事が二転三転し、約束を平気で破る。時間にルーズ。

 生活態度が劣悪。計画性がゼロで、なすべきことの優先順位が全くできない。」

要するにだらしがなくて、世間からは “さぼり”“甘え” と非難される類の人達だ。

 

しかし彼らが堕ちていくのは、本当に自己責任なのか。

著者は、脳梗塞から“不自由な脳”(脳機能障害)に陥った経験と、今迄取材してきた

人達の行動を深掘りすることにより、彼らは働「かない」のではなく、働「けない」

結果として貧困に陥っている…という結論に達する。

 

以下に、病後の著者自身と今迄取材してきた人達の症状を幾つか抜粋。

 ・レジでお金を数えられず混乱 (ワーキングメモリ機能と注意機能の低下)

 ・すっぽかしやダブルブッキングの頻発 (短期記憶の機能低下)

 ・昨日はスンナリ出来た事が、翌日には出来ないことがある  (日内・日差変動)

 ・事務処理能力の喪失 (特に行政の申請書類は理解しにくい)  

 ・疲れるといきなり考えがまとまらなくなる          等々

 

他に、バックレ退職率が異様に高い。ギャンブルや、アルコール・薬物依存者が多

い。督促状を開封さえせずに、問題を先送りする人もよくいる。

多くの具体例が挙げられているが、そこ迄追い込まれたら普通は何らかのアクショ

ンを起こすだろうに…と唖然とする。しかし、それこそが脳の障害による症状で、

問題を直視すると、却ってその問題を解決する行動が出来なくなるのだとか。

 

このような症状は、各種精神疾患・働く世代の認知症や発達特性のある当事者も同

様で、他に虐待・DV・ネグレクトのような過酷な環境により、後天的に現れる場

合もあるという。そしてこの圧倒的な不可能感のどこまでが症状で、どこまでが甘

えなのか、本人も次第に分からなくなってくるそうだ。

 

では、彼らはどうしたら良いのか。著者は以下のように助言する。

・不自由を悪化させる最大の妨害要因が「不安の心理」であることを理解し、まず

 は思い通りにできない自分に対する自罰をやめる。

・診断名よりも、同じ不自由な脳の当事者のライフハックに学ぶ。

・出来ない事よりもまだ出来る事を探し、出来る仕事と出来ない仕事を把握する。

・適度に依存する。(著者は妻の協力で立ち直った)           等

 

著者は “脳の不自由” に気付かなかったことへの償いの気持ちのためか、かつての

取材者に対して思い入れが強い感もするが、「救われるべき時に救われなかった子

供が、長じて差別と排除の対象になるのは耐え難い理不尽だ。」は、本当にその通

りだと思う。

 

本書の結論は、あくまでも著者の考察により導き出されたものだが、経験に裏打ち

されており、肯くことや考えさせられることが多かった。

しかし、世の中には明らかに“狡猾な怠け者”という人間もいるので、素人に見極め

は難しそうだ。