[内容]
社会に蔓延する “やりがい搾取”の実状と、大学の“キャリア教育”の問題点を取
り上げて解説。副題『悪用される“内発的”動機づけ』
[感想]
著者はMP人間科学研究所代表。
自己実現、やりがい、成長、といった謳い文句で、ワーカーに低賃金で長時間労
働や過酷な仕事を続けさせる…これが、いわゆる“やりがい搾取”だ。
肩書きだけで権限が一切無い上に残業代が全く出ない“名ばかり管理職”が有名だ
が、他にも接客業、介護士、保育士、IT関連、大学の非常勤講師…等、やりがい
搾取に陥りやすい職業は枚挙にいとまがない。
日本人には、“使命感や人間関係に縛られやすい”という特性があるそうで、本書
では職種ごとにその実状が述べられている。
“内発的動機付け”という心理学の理論を悪用する経営者が増え、まるで疑似宗教
のようになっている企業もあるという。新入社員ほど洗脳されやすく、使い捨て
に近い処遇を受けながらも、モチベーションを高く持つ若者がいる反面、現実と
のギャップに苦しむ人も多いとか。
著者はこうした背景には、大学の“キャリア教育”も大きく関わっていると指摘。
「キャリア教育とは、社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度
を育てることを通して、キャリア発達を促す教育。」とあるが、要は社会に出る
前に自分の好きな事を探し、やりたいことを仕事にしよう…ということ。
それに応えて頑張る学生もいるが、内心「やりたいことが分からない。」と焦った
り落ち込んだりする学生も多いという。それに対して著者は「それが当たり前。」
「やりたいことを無理に探すのではなく、出来る事を着実に増やしていき、やり
たいことが見つかればよい。」と言う。
また、やりがいを求めて転職を繰り返す若者にはこう話す。
「就職前からやりたいことが決まっていて、仕事で自己実現できる人などほんの
一握り。生活そのものや、充実した余暇のために仕事をすることはいけないこと
なのか。」
「生活のために働くという覚悟で就職したのであれば、下積みの仕事、初歩的な
仕事、あるいはルーティンワークが続いてもそれほど不満に思うことは無い。」
本書では多くの研究者の意見の他、下記のような話も色々取り上げられている。
・自己実現系の仕事が、ワーカーホリックに陥るからくり。
・(実験の結果)外的報酬を与えられることで、内発的動機づけが機能しなくなる。
・政府の対応のまずさのあれこれ。例えば「改正労働契約法」(2013年)が施行さ
れた時、この法律を逆手にとって雇用契約を解消する動きが出た…等々。
著者の考案した「自分のワーク・バリューを知るためのチェックリスト」が載っ
ており、これも求職中の若い人の参考になりそうだ。