[内容]
山谷に、ホスピスケアの受けられる独居用アパート “きぼうのいえ”を創設した夫
婦の半生と、この地で介護福祉サービスを営む人々のドキュメンタリー。
[感想]
著者は介護ジャーナリスト。
本書は第28回小学館ノンフィクション大賞を受賞している。
東京の山谷(俗称)は、大阪の西成、横浜の寿町と並ぶ3大ドヤ街の一つで、明治の
頃から肉体労働者が集まる地域として栄え、第二次世界大戦後は肉体労働者の送
り出し元として機能していた。ちなみにドヤとは、“宿(ヤド)”の逆さ言葉。
“きぼうのいえ”は、2002年に山本雅基氏(1963年生まれ)が約2億円の借金をして建
てたもので、4階建てで定員は21名。11名のスタッフと複数のボランティアが働き、
入居者にかかる費用は、様々なサービスを含めて合計143,500円。これは入居者の
生活保護でほぼ賄える金額で、足りない分は寄付や差し入れで補っている。
このホスピスの成功により、ここをモデルにした映画『おとうと』(笑福亭鶴瓶主演)
が制作され、NHKで特集が組まれるなど、彼らは一躍有名人になった。
しかしその実状は、運営の大変さに加えて、ウツ病歴のある山本氏のアルコール依
存・統合失調症、更に無軌道な投資計画の破綻…等々波乱続きで、妻は「これ以上、
魂にウソをつくことはできません。」の書き置きを残して、駆け落ち失踪している。
破綻した無軌道な投資計画……これは2006年に、スピリチュアリストの江原啓之氏
によるホスピスのサポート計画が持ち上がった時に起きた。結果的に、山本氏の独
断によるごり押しが原因で頓挫してしまうのだが、このため江原氏は7,000万円もの
損害を被ったという。
山本夫妻の人生、特に山本氏の生い立ちから始まる半生を読むと、正直言ってよく
ホスピスを続けられたなぁ…と思うほど、2人には脆く危うい面がある。本人達の
頑張りは勿論だが、成功は周りの人達の協力の賜物でもあるようだ。
本書では山谷の歴史と、地域包括ケアシステムの成り立ち、そこで働くスタッフの
ことも詳しく書かれている。
山谷版地域包括システムの中心になっているのは、「きぼうのいえ」「訪問看護ステ
ーションコスモス」「ふるさとの会」「山友会」「友愛会」の5つのNPO法人だ。
詳細は割愛するが、殆どが外部からやって来た人達で運営されており、彼らの深い
思いやりと行動力には、読みながらただ感服するばかりだった。
※地域包括システム=厚生労働省が中心に進めている計画で、住まい・医療・介護
・予防・生活支援が一体的に提供されるシステム。
その後紆余曲折があって、山本氏はホスピスの理事長を解任され、更に心身を蝕ん
で現在は山谷で生活保護を受給しながら、福祉の助けを借りて生活している。
著者が最後にこう書いている。「山谷にホームレスはいない。たとえ路上で生活し
ていようと、地域のケアシステムとどこかで繋がっている。山谷全体が彼らのホー
ムといえるのだ。」
ちなみに昨年の調べでは、山谷に住む日雇い労働者は数%で、住民の9割が生活保
護受給者。平均年齢は70歳弱だとか。彼らはある意味恵まれている…と言えるかも
しれない。