ほたるBBの 絵と 本と 雑感日記

60代後半に再開したお絵描きと、読書の備忘録。考えさせられたことなども綴ります。

読書感想『野戦のドクター』(トニー・レドモンド)

[内容]

国境を超えてあらゆる緊急事態に駆けつける、無給の医師達のドキュメンタリー。

副題『戦争、災害、感染症と闘いつづけた不屈の医師の全記録』

[感想]

著者は英国の医学博士。マンチェスター大学教授。NGO“UKメッド”創設者。

 

30年以上にわたり緊急医療の第一人者として国連、WHO(世界保健機関)、英国政

府と協力し、災害や戦争など世界中の緊急医療の最前線に立ってきた人で、リアル

な緊急医療現場の実態にはその凄惨さに何度も頁をめくる手が止まった。

 

著者が駆け付けた国は文字通り世界中で、紛争下のボスニアクルド人難民キャン

プ、スマトラ島沖地震パンアメリカン航空爆破事件、等々その中身は様々だ。

 

現場では一刻も早く負傷者の治療に当たろうとするが、混乱した被災地や紛争地で

の予断を許さない厳しい環境の下、様々なアクシデントに阻まれる。

 

常に死と隣り合わせで、それは飛び交う銃弾だったり、政治的背景や立場の違う人

達との軋轢だったりと色々で、毒を盛られたこともあったという。

 

以下は活動の一例で、1988年大地震に襲われたアルメニアの都市での事

アルメニアは氷点下の高原に位置している。

 

公式な死者数は 2万5000人,負傷者 1万3000人,家を失った人 50万人。

犠牲者も建物も破壊的な状況で、更にアルメニアアゼルバイジャンと紛争中だっ

たため、誘拐や爆破の計画などの不穏な噂が飛び交い、パンを求めて並ぶ列を乱し

た人々の頭上に、暴動を恐れた軍が発砲する一幕もあった。

中には救助の支援をする国際ボランティアに、もう一度探せと強要したり、銃口

突き付ける人もいたという。

 

驚くのが、このような被災地での緊急医療を“自国で資格もなく訓練も受けていな

いが、施術を試す絶好の機会”と見る医師達がいることだ。著者は実際に不要な四

肢切断手術を施された被災者を何人も見ており、このような医師達を「“災害観光”

であり、医療従事者の恥である。」と強く非難。

 

著者はその後、外国人の緊急医療チームが備えるべき最低基準を作る仕事の中心

となり、その結果医療チームは、活動歴や外科医の人数などをWHOに事前登録し、

能力に応じて分類されることになった。

 

著者はまた、「全ての災害の被害は人災だ」と断言する。人間が起こす戦争の被害

はもちろん、地震やハリケーンによる被害も多くは、人為的行為(もしくは不作為)

の結果だという。そして、災害で最も苦しむのは、最貧国の貧しい人だとも。

 

その他、本書から大事なことを幾つか抜粋。

寄付の品は多くの場合、必要な人々には届かない。何が必要なのかは管理体制が

 整っている大手機関に決めてもらい、私たちは資金を提供する。それがベストだ。

コロナなど病気の発生は通常自然現象とみなされるが、この公衆衛生的・社会的

 ・経済的な災害を自然災害として、言い訳に終始する事があってはならない。

災害支援の為に大勢の人々が流入し、彼らが伝染病を持ち込むケースがある。」

報道にはカメラマンや編集者の見解が反映されており、常に別の見方がある。

 

著者はこれまでの活動を通じ、重金属中毒、マラリア、脊椎骨折の重傷を負ってい

る。又沢山の横暴な人間を見てきたが、それでも「被災地では、人間の醜悪さより

も、善良さを目撃することの方がずっと多かった。」と述べている。