[内容]
古代から現代まで、世界で起きた数々の戦争の検証と、多くの文献を基に
“戦争の不可解さ”について考察。副題『愛と平和主義の限界に関する考察』
[感想]
著者は「本書の目的は答えを出すことではなく-(略)-私達の“凡庸な悪”を正視した
いのである。」と言い、戦争の原因、宗教との関係、戦時における人の心理、人間
の本質、戦争の概念等々を深く掘り下げていく。
本書の紹介文に「入門書としても手に取りやすい」とあったが、参考文献や寓話、
専門家の意見の数量がとても多く、教科書としても使えそうな感じだ。
序章の『この世界のいったいどこに神がいるのか』では、僅か100日間の間に80
万人が殺された“ルワンダ大虐殺(1994年)”のことが取り上げられている。
当時逃げ惑った人の「ジェノサイドは狂気の沙汰なのではなく、入念に計画され普
通に正気を保ちながら人殺しを遂行したのである。人間というのは一瞬にして、言
い尽くせないほど残忍になりうる動物です。」の言葉は、昨日まで普通に交流のあ
った隣人同士でも、状況次第ではそうなり得ることを証言したもので戦慄が走った。
『戦争は人間の本性に基づいているのか』の項目で一番驚いたのは、今迄は発掘さ
れた古代の遺骨の状態から、“人類ははるか昔から集団的に殺し合いをしてきた”と
言われてきていたが、実は、頭蓋骨の穴は動物の牙の跡だったり、石や化石の堆積
の結果生じたものだったものが沢山あるということが分かったことだ。
宇宙論と同様、“定説”がいつ又どんな風にひっくり返ってしまうのかと興味深い。
人類の間で苛烈な戦争を可能にしたのは、「言語の出現」「土地の所有」「死者に
繋がる新しいアイデンティテイ(親や祖先の恨みなど)」の3つだという説。
問題は狩猟でも農耕でもなく“定住”で、土地を守ろうとする気持ちがやがて、排他
的な防衛意識となっていったという。
確かに人間は、土地や資源を巡って今も終わりの見えない争いを続けている。
『あらゆる技術が軍事に貢献する』…この項目も驚かされることが多かった。
様々な兵器の登場とその変遷の解説が続き、「道路、動物 -(略)- 化学、天文学、
宗教にいたるまで、全てが戦争を支えてきたし今後もそうである。」と結論づける。
また軍事研究は技術を発展させる契機になるそうで、家電を始め多くの具体例が
挙げられていた。
以下に、印象深かったものの中から3つ抜粋。
「戦争においてまず重要なのは、『我々は戦争をしたくない、しかし敵側が一方的
に戦争を望んだ』という宣伝である。」
「魔女狩り・異端審問・拷問・残酷な刑罰は今では“ありえないもの”になってい
る-(略)-その最大の要因となったのは、印刷物の増加と識字能力の向上である。」
「見たところ戦争とは関係の無い手段で、戦場は拡散していってる。例えば、貿易
戦、メディア戦、金融戦、ハッカー戦等々で、枚挙にいとまが無い。」
最後に。
「途上国の内戦や、ゲリラなどによる虐殺が頻繁に報道されるので勘違いされるが、
実際はこれらは減少しており-(略)-現在のこうした平和は長く続く。」(要約)
これはある心理学者の言葉で、つまり世界は私たちが思う以上に平和であるという
意味だが、本当にそうだろうか。彼にとって世界とは、先進国だけなのだろうか。