[内容]
国内外の双生児の研究結果から、行動遺伝学に基づいた子育て論を展開。
副題『学力は遺伝、生まれが9割。でも誤解だらけ』
[感想]
著者は慶應義塾大学名誉教授。
行動遺伝学=遺伝的要因と環境的要因が個人差にどの程度影響を与えているのを
科学的に研究する分野のこと。
本書は、学童や数多くの双生児を対象にしたデータと、既に大人になっている何
組かの一卵性双生児に個別インタビューした結果を基に解説されたもので、どれ
も興味深い内容だった。
沢山の実例が紹介されており、以下に研究により導き出された答えから4つ抜粋。
「遺伝をこの世界で形にしてくれるのが教育」…結局教育は遺伝に勝つことがで
きない。しかし遺伝によって全てが決まっているわけではなく、また教育無しに
遺伝は姿をあらわさない。(略)‐親が人間として真っ当に生きることが最大の教育
である。
「どこで誰に育てられてもその子は同じように育つ」…愛情のある親の元だろう
と養護施設であろうと、そこで真っ当に育てられる限り子供のパーソナリティに
は大した違いがない。
「収入や社会階層への影響」…教育に沢山お金を使える家庭では、学力や知能に
及ぼす遺伝の影響がより大きく現れる。逆に貧しい家庭では、子供が自分の遺伝
的素質を発揮する機会が与えられず、親の作る環境に左右される。
「子供の“好き”を大切に」…学業成績などは最も遺伝率の高いものだが、だから
と言って絶対に理解することが出来ない脳のネットワーク回線が遺伝的に組み込
まれているわけではない。少しでも諦めきれない思いが残るとしたら、その事自
体に何らかの遺伝的根拠がある筈で、駄目と決めつけるのは間違い。
以下に、教育とは関係なく心しておいた方が良いと思った中から1点だけ。
「知能の個人差に及ぼす共有環境の影響は、成人期に向かって徐々に減少してい
き、その代わりに大きくなるのが遺伝の影響だ。但し遺伝子はヒトの意思に命令
を下しているわけではなく、意思の力で遺伝を抑え込むことは可能である。」
他にも「隔世遺伝」「個人の経験が脳に与える影響」「親の努力の厳しい現実」
等興味深い解説が続く。
最後に著者のこの言葉を。
「こうして遺伝の影響を強調すると、パーソナリティや発達障害は遺伝によって
決まっていて、環境ではどうしようもないと思われがちですが、そういう意味で
はないことも強調しておかねばなりません。」