[内容]
深夜のお弁当工場など、目につかない場所で働く外国人労働者の実態を解説。
副題『失われた30年と技能実習生』
[感想]
著者はジャーナリストで、高卒進路応援マガジン(ハリアー研究所)編集長。
本書は外国人労働者の多い「建設業、農業・漁業、縫製業、介護、特定技能」の
5つに焦点を絞って解説されており、職場の写真も多数。
日本で実習生を受け入れている企業の50%は、10人未満の零細企業だという。
「外国人の受け入れで日本人の仕事が奪われる」といった指摘もあるが、そもそも
応募がない・すぐに辞めてしまうといった日本人のやりたがらない仕事を、外国か
らの出稼ぎ労働者を低賃金で雇ってやり繰りしている…というのが実情だとか。
ちなみに外国人依存度の最も高い業界は、食料品製造業だそうだ。
本来、技能実習制度の目的は「技術や知識を日本で学び、それを母国で生かしても
らう。」というものだった筈だが、それはあくまでも建前。そういう意味では日本
語学校の留学生も、“資格外活動”の名目で就労が認められており、大差は無い。
実習生の出身の多くは、ベトナム・インドネシア・フィリピンなど経済格差の大き
い国で、多くの人が来日前に借金をして、母国の送り出し機関に何らかの費用を払
って来ている。借金がある彼らは簡単に故郷に帰るわけにはいかないので、雇用ト
ラブルが起きても我慢することが多い。例えば、
建築業は良心的な会社と悪徳な会社の差が大きく、失踪者の半数は建設関係。
農業と漁業は、繁忙期に一時的に必要となる仕事が多く、そのため雇用が不安定。
ちなみに、介護業界は2017年に政府が介護福祉士の在留資格「介護」を新設。
奨学金や準備金の貸付制度があり、在留期間更新回数に期限が無く家族帯同も可。
実習生の前身である『外国人研修生』が本来の目的を失い、“労働力の需給の調整
の手段”となったのは、1990年に改正入管法が施行されてからだった。これにより
大企業に限られていた研修生の受け入れが、中小企業にまで拡大したという。
政府が2008年に『留学生30万人計画』を立ち上げたことも大きい。これにより当時
12万人だった出稼ぎ留学生を、2020年迄に30万人に増やそうとした。
ところが東日本大震災で多くの留学生が帰国してしまい、目的達成が危ぶまれため、
急遽在留資格審査を緩和。それにより出稼ぎ留学生を受け入れる日本語学校が乱立
して、留学生が30万人を突破しそのことが社会問題化した。
そのため政府は、今度は在留資格認定を一気に厳格化。
その後に起きたのがコロナ禍で、新規入国に大幅な規制がかかり、結局留学生は21
万人(2021年)にまで減少。こうした災害による紆余曲折を経て、国は今又、新たな
30万人計画に向けて動き始めているという。
本書では他に、「特定技能」「各々の職場の実状」「実習生と管理団体・厚生省と
の関わり」などについても詳しく解説されている。
失踪者が支援団体の助けを経て再就職をするケースは多いが、ネットには失踪者・
不法滞在者向けの求人情報や、偽造の在留カードの作成を請け負う会社の情報な
ど様々な投稿があり、問題が山積みの状態だ。
「実習生が目に見えないところで、日本のあらゆる産業を支えている。」「このま
までは“奴隷” さえ来てくれない国になる。」…外国人による治安悪化が懸念されて
いるが、少子高齢化が進む中で著者のこの言葉はズシリと重い。