[内容]
子供時代に多種多様な体験をさせてもらえる子と、させてもらえない子の現実、
及びそれが子供に与える影響を考察。
[感想]
著者は、生活困窮家庭の子供の学びを支援する公益社団法人の代表。
習い事や旅行など子供時代の様々な体験は、生まれによって格差があり連鎖する
という。そしてそれは、子供の成長や将来に大きく影響するとも。
本書は独自に行った全国調査の結果を基に、子供の“体験格差”の実態を以下の5種
に分けて 解説。
①放課後の習い事 ②クラブ活動 ③キャンプや旅行の参加
④お祭りなどの地域行事 ⑤スポーツ観戦や博物館など教育施設での体験。
体験格差の最も大きい原因は親の年収の違いで、低所得家庭の約3人に1人は、過去
1年間での“体験”がゼロの状態にあるという。又、送迎や付き添いが出来ないとい
う“時間的理由”も経済的理由に匹敵する割合となっている。
貧困とはそもそも選択肢が無いということで、町内のお祭りにさえ格差は見られる
という指摘には、まさかそこまで?…と驚きを覚えた。
巷には無料で提供されている色々なイベントがあるじゃないか、という意見もある
が、皆それぞれに事情があるので、それを親の自己責任とは言えないと著者は言う。
第二部の『それぞれの体験格差』では10の事例が紹介されており、そこから様々な
ことが見えてくる。
・活動中は親がその場に居ないといけない…というものが多く、それがネックに。
・兄弟に障害のある子がいる場合、その子を家に置いて参加することは出来ない。
・親の体験ゼロの場合、子供の体験もゼロになる割合が高い。
・マイノリティの子供が直面する壁がある。 等々
下記の2つは「“体験”への十分な機会が得られなかった子供達から、相対的に奪われ
ているのは何か。」という問いに対しての答えの一部。
・他の子供達に出来ていることが、自分には出来ていないという剝奪感。
・中長期的な成長に様々な影響が予想される“社会情動的スキル”を伸ばす機会。
※社会情動的スキル=感情のコントロール、他者との協働、目標の達成といった個
人の一生を通じて社会・経済的成果に重要な影響を与えるような個人の能力。
他にも幾つか、子供時代の様々な経験による成果や影響について挙げられている。
・家庭や学校の関係性だけではない、色々な他者との繋がりを育む機会である。
・体験の場は、不登校など社会と繋がることに。
・昨今、学生時代の活動や経験も重視される入試制度が広がりつつある。 等
最終章ではすべての子に“体験”の機会を届ける方法として、著者が代表を務める社
団法人の活動内容と共に、幾つかの案が提示されている。
「体験は必需品であり贅沢品ではない」…著者の言うように出来る事は限られるか
も知れないが、少なくとも小1の子が「サッカーがしたいんです。」と泣かずにす
む社会になるよう、周りのサポートや支援は必要だと思う。