[内容]
2万体の検死をした元監察医の、心に刻まれたエピソードと私達への注意喚起。
[感想]
よく「人はそう簡単には死なない」と言われるが、本書を読むとむしろ、人が思
いがけないことであっけなく死ぬことに驚かされる。
私たちの日常には、死につながる危険が沢山潜んでおり、以下は死亡例の一部。
「長時間椅子に座っていて急に立ち上がり、肺動脈血栓症を起こした。」
「酔って嘔吐物を出し切らずに寝てしまい、誤えん性肺炎になった。」
「扇風機に当たりっぱなしで死亡。」…特に赤ん坊は、そよ風でも死ぬ時がある。
「真冬に冷水を一気飲みして、冷水ショックを起こした。」
「パンの早食いで窒息。」…スポンジ系の食品は滑りにくいうえに唾液を吸収する。
「腹への蹴りで死亡。」…たった1発でも、衝撃が酷いと死に至る。
一人一人が正しい知識を持つことと、何事も“加減”が大事だということを痛感する。
その他に、気を付けたいことの中から3点抜粋。
・子供に酒は厳禁。少しの量でも死ぬことがある。
・急に胃の具合が悪くなったり、背中の左側が痛む時は、心臓発作の場合がある。
・軽い交通事故でも必ず病院で検査をすること。翌日に死ぬケースは意外と多い。
(事故の何日か後に後遺症が出た知人は、相手に“因縁”扱いされて暫く揉めた。)
最後の『安楽死について考える』も、興味深い内容だった。
1961年に、病気で苦しむ父親を息子が見かねて殺すという事件があり、この時裁判
所によって初めて「安楽死許容の六条件」という見解が示された。
その中に「医師の手によることが原則」というのがあり、私はそのことを特に疑問
にも思わず読み進めたのだが、著者は「なぜ法律家が医者の許可も得ないで決めた
のか。」「これがために、医療の現場に安楽死が持ち込まれてしまった。」と、大
きな不満を持ったことを明かす。
「医者の本来の使命は1分でも1秒でも命をサポートすること。」…言われてみれば
その通りで、その後1991年の「東海大学安楽死事件」により、六条件のうち「医師
の手によることが原則」「その方法が倫理的にも妥当かつ許容し得るものである」の
2点はカットされたという。
日本では安楽死は嘱託殺人罪として処罰されるが、安楽死を認める国は増えており、
今後更に議論が活発になっていくと見られる。