[内容]
日本の食料自給率が低過ぎる現状と問題点の解説、輸入に頼らない農業の提案。
副題「食の安全保障をどう守るか」
[感想]
著者は東京大学大学院教授。
序文に、米国の大学の研究者らが予測したこんな文章が引用されている。
「局地的な核戦争が勃発した場合-(略)-2年後の餓死者は食料自給率の低い日本に
集中し、その数は日本の人口の約6割(世界の3割)に上る。」(要約)
現在日本の食料自給率は37%程だが、肥料とタネの海外依存度を考慮したら10%
に届かないくらいだという。著者は上記の予測は決して大袈裟ではなく、「重要
なことは、核戦争を想定しなくても世界的な不作や敵対による輸出停止・規制が
広がれば、日本人が最も飢餓に陥りやすい可能性があることだ。」と警告。
日本の食料自給率が下がった最大の原因は、“貿易自由化”と “食生活改変政策”
(洋食推進運動など)で、車などの関税撤廃を勝ち取るために、日本の農業は農作
物の関税引き下げと輸入枠の設定を強要されてきた。
世界情勢も食料供給に大きな影響を与える。以下は近年の代表的な事例だ。
2020年のコロナショックによる混乱。 原油価格の高騰によるバイオ燃料問題。
2022年に始まったウクライナ戦争では、小麦など食料の注文が特定の国に殺到。
その他、異常気象や、経済成長を遂げた中国の食料爆買いなど。
海外では食料の自給自足のために、国が補助金などで農家や酪農家を守っている
そうで、その中身を数字を挙げて具体的に解説。対して日本の農政はどうか。
著者は日本の農政の変遷を解説の後、「今では財務省と経済産業省の主張ばかりが
通り、やって当然の農業政策ができていない。」と手厳しい。
また、食料自給率を上げるということは、アメリカからの輸入を減らすということ
を意味し、“結局日本はアメリカの意向に逆らえない” “現在酪農が危機状況にある
のも国の財政政策による人災”とバッサリ。
次に多国籍企業に関連する意見が続く。
「世界の種子市場の約7割弱、世界の農薬市場の約8割をたった4社で独占している
(略)-だから、農家の自家採取の権利を奪うことが必要になる。わが国でも2020年
に成立した改正種苗法によって、自家採取が制限されてしまった。」
※ネットの解説では、在来種や品種登録が行われていない品種、登録期間が満了し
た品種については、育成者権が生じていないため自家増殖は制限されないとある。
本書では、危険な農薬や成長促進剤を使った食肉など、輸入品の安全性についても
幅広く取り上げられており、また海外では食品の危険を排除するために、消費者が
どのように戦っているかが紹介されている。
コメを主食とする和食に切り替えるだけで、日本の食料自給率は63%になるそうで、
内容は割愛するが、『コメ中心の食生活の10のメリット』『農業再興戦略』は先を見
据えた内容で興味深く読んだ。
今年6月に川田龍平議員が参議院に、“ローカルフード法” 法案を提出した。
日本は野菜のタネの9割を輸入に頼っている状態なので、成り行きを注視したい。
※ローカルフード法=「地域のタネからつくる循環型食料自給」を目指す法律。