ほたるBBの 絵と 本と 雑感日記

60代後半に再開したお絵描きと、読書の備忘録。考えさせられたことなども綴ります。

読書感想『誰のための排除アート?』(五十嵐太郎) 

[内容]

巧妙に隠される多くの“排除”の事例を挙げて、その背景を解説。

[感想]

著者は東北大学大学院教授。

本書は全部で63頁と薄いが、実例として掲載されている57枚の写真には驚きの

意味があることを知り、初めてこの問題について考えさせられた。

 

2020年に渋谷区のバス停のベンチで、60代の女性が頭を殴られて死亡するとい

う事件が起きた。犯人は近所の40代の男(公判前に自殺)で、動機は「ホームレス

は邪魔」というもの。この事件でもう一つ話題となったのが、バス停のベンチが

いわゆる “排除ベンチ” (排除アート)と言われるものだったことだ。

 

排除アートとは、路上・駅・公園などの公共スペースにおいて、想定された用途

以外に使用されることを防ぐ造形物のことで、その目的は主にホームレスの排除。

代表的なものが体を横たえることの出来ないベンチで、他にも様々な事例が挙げ

られている。その中から2件抜粋。

 

(1994年) 新宿西口の地下通路にあった約100棟の段ボールハウス村が解体され、

その後そこにはフェンスが張りめぐらされ、約450本の植木が置かれた。

 

(2008年) 仙台の青葉通地下道の噴水で、洗濯する生活路上者がいたために水を止

められた。しかし今度は噴水内に荷物が置かれるようになったため、フェンスで囲

って表面はバラの造花で覆われた。

 

私は最初、仕方のない面もあるのでは?と思いながら読んでいたのだが、いくら読

み進めても、その後の行政によるホームレスヘのケアの記述が無い。そこで初めて

彼らは追い払われただけであることを知り、ホームレス問題が単純な話でないこと

は承知しているが、後味の悪いような気持ちになった。

「彼らを排除するだけでは根本解決にはならない。」…著者の言う通りだと思う。

 

排除アートには様々なものがあり、その多さにも驚かされた。以下はほんの一部。

 

・仕切りがある、幅が狭過ぎる、円柱型などのベンチ。

・広場や空間に、あたかもオシャレなアートですという風に置かれた造形物。

・突起物だらけの床面。 

 

実は “排除されるべき人々” が居づらい場所や使いにくいものは、一般の人に

も不便を強いているとして、著者はこんな例を挙げる。

例えば地下街を10分近く歩いてもベンチがない。つまりそれは、高齢者や妊婦、体

の悪い人がちょっと休みたくても、無料で腰をおろす場所がないということだ。

 

公園においては子供の遊具が激減し、代わりに高齢者向けの健康遊具が増えている。

それは少子高齢化への配慮だとしても、ボール遊びの禁止や大声を出さないなどの

注意事項が増えており、既に子供の声がうるさいという苦情により遊具を撤去する

事態も発生している。ペットと戯れることが出来ないところも多い。

 

以前我家の近所の広場でも、突然「犬の散歩禁止」という看板が立ったが、数か月

で看板が外されるという出来事があった。どちらも苦情による判断だったらしい。

 

本書の結論として著者はこう述べる。

「排除アートは、われわれが使えるはずだった場所を奪う」

「他者を排除していくと、誰にも優しくない都市になる」