[内容]
病・AI・敗戦・自然など、様々な角度から生物である“ヒト”と、かつての自分
の思いを深く掘り下げたエッセイ集。
[感想]
著者は解剖学者で東大名誉教授。趣味は昆虫採集。
2003年出版の『バカの壁』は、450万部超えのベストセラーとなっている。
本書はコロナ禍の2年間に考察されたもので、著者はこの時既に80才超え。
「要はどう折り合いをつけるかなのである。折り合いなんだから中途半端に決ま
っている。」と言いながらも、本書にはどこか達観した雰囲気が漂う。
著者は戦後の社会を受け入れられず、当時は心理的に抑圧していたそうで、回顧
録としても興味深く読んだ。
高校時代の校長の「良いことは人に知られないようにやりなさい」の言葉には、
「つまり悪いことと同じだなあ」と思ったそうで、10代半ばにしてこの感想は、
余程屈折していたのか頭が良過ぎたのか(笑)。
2020年(82歳)に心筋梗塞で入院しているが、昔から病院嫌いで「1年に15㎏痩
せ、更に不定愁訴とこの3日間やたら眠くて。」…それでやっと観念して病院に
行ったというから驚きだ。
入院中はよく幻覚を見ていたそうで、その中には地蔵菩薩もいたとか。著者のよう
な人でもそういったモノを見るということは、信仰の有無に関係なく日本人には
仏教文化が刷り込まれているのかも知れない。
内容が多岐に渡っているので感想文にはどれを取り上げるか迷ったが、その中から、
「著者はそう考えるのか…。」と少しハッとしたものを4つ抜粋。
「社会がAI中心に動くということは、個人がAIのように動くことになる方向性を
意味する。何故なら個人は社会を自分に投影するからである。」
(予測されている大型地震に対して)
「グローバル企業は経済原理として災害対策はしないであろう-(略)-問題をそう
設定すれば、日本はよりナショナリズムに向かうはずである。」
「社会システムに寄りかかるなら、そのシステムと共倒れの覚悟が必要。」
「生物の世界は進化の結果『なるべくしてなった』結論で、算数で言えば回答集で
ある。-(略)-じゃあ問題は何だったのか。」
最後の章『ヒト、猫を飼う』は、亡き愛猫“まる”のプロフィールから始まる。
「ネコとヒトを一緒にするなと言われても、ヒトと動物をそう理性的に切れるもの
ではない。」「まるの定位置を見てしまう癖が一番抜けない」…どの言葉にも頷きな
がら読んでいたが、「享年18歳。でも私は聞かれたら19歳でしたと言う。19歳ま
で生きて欲しかったから。」の言葉には、気持ちが分かり過ぎて目頭が熱くなった。
著者には4歳の時に亡くなった父親を始め、医療事故で亡くなった人や自殺した学
生など、自身が「居座る背後霊」と呼ぶ、心の中から消えない人たちがいる。
又「私はクモが大嫌いだが、クモの生存権は認めている」と書いている。
著者にファンが多いのは、知見の広さや愛猫への思いだけではなく、これらのこと
からも分かるような気がした。