[内容]
2011年3月の東日本大震災で、300人以上の遺体の復元をした女性の体験談。
[感想]
著者は岩手県在住の納棺師で、当時は両親と小中学生2人の子との5人暮らし。
前半は震災前の納棺師としての体験、後半は震災犠牲者のなきがらの復元と、遺
族の様子が綴られており、この時の事はドキュメンタリー映画にもなっている。
1話目は、臨月で亡くなった女性の話だ。
「お骨の一部が入った赤ちゃん用の骨壺を、涙を流しながら抱きしめてい
た “おじいちゃん (故人の父親) ” が、次の瞬間なんのためらいもなく、
『ほ~ら、高い、高~い。』と骨壺を空高くかかげた。」
亡くなった娘さんは一人娘で、お腹の子は初孫だったという。
私はのっけから滂沱の涙で、その後も辛い話が続くが、どのエピソードにも遺族
の深い愛と著者の思いやりが溢れていて、気付かされる事も多かった。
死化粧というと、化粧で変えると思われがちだが、あくまで“戻す”であり、だ
から“復元”なのだとか。そして著者がとりわけ大きなこだわりを持っているの
が、その人らしさと微笑みを戻すことだという。
震災時の遺体の復元の作業は、全てボランティアで行なったそうだ。
キッカケは大勢の大人の遺体の間に、ポツンと1人で置かれていた3才くらいの
女の子の亡きがらだった。「家族が迎えに来る前に、この子を可愛い女の子に戻
してあげたい。」そう思ってそこにいた警察の方にお願いしたが、身元不明者の
遺体に触れるのは法律で禁じられているため、その思いは叶わなかった。この
時すぐに諦めてしまった後悔が、その後の彼女の行動に大きく影響している。
復元の方法が詳しく書かれている場面もある。損傷が激しかったり、ウジが湧い
ていたり、一部が白骨化した遺体等。
1日に10~20人の復元を行い、殆ど自宅には帰れない日々。しかしそれよりも
身にこたえたのは、日が経つにつれ子供の復元が増えていったことだという。
写真がある人は幸いだ。写真が無ければ、状態が悪いほど復元が難しくなる。し
かしそれに関して著者は、こんなことを書いている。
「でも不思議です。集中して肌に触れていると、手が動いていくのです-(略)—
何かに突き動かされるような感覚がありました。」
著者は復元で大切な事として、次のことを挙げている。
「何より亡骸に触れること」「この人は生きていたのだと改めて理解すること」
「自分に負けない勇気と根性」
どの被災者の話も胸に迫る内容だったが、他にも印象深い人達が登場する。
・被災者の為に会を立ち上げ、遺族の為に尽力した僧侶。
・命をかけて街の人達を救った消防団員。 等々
日本は世界有数の地震大国で、南海トラフ地震を始め、幾つもの大きな地震の発
生が予想されている。本書のような辛いことが二度と起きないことを願うが、し
かし専門家でも地震の正確な予知は出来ないという。
ということは、私達は皆最低限の備えはするが、あとは“なるようになる”と思
って暮らすよりしょうがないのかも知れない。