[内容]
主にZ世代の若者へのインタビューを通して、彼らが映画や映像を早送りで観
る理由と、その背景を様々な角度から考察。
[感想]
若者の多くは、映像の倍速視聴・10秒飛ばしが習慣化しており、ネタバレ・レ
ビューを読んでから観る人も多い。その理由として著者は次の3点を挙げる。
①映像作品の供給過多
②コスパを求める人が増えた
③セリフですべてを説明する映像作品が増えた
著者は「それはアーティストへの冒涜ではないか」「それでは作品を味わった
ことにはならないぞ」と考えるが、鑑賞の仕方を変えたのは供給側の方でもあ
ると言う。特に大きな影響を与えているのが、配信動画とファスト映画だそう
で、以下のように解説する。
「有料配信動画は、定額料金を払えば定められた作品をどれだけでも安く観ら
れる。その結果1作品ずつが大事にされなくなった。」
「作品の全貌を短時間で把握できる効能という側面においてファスト映画に勝
るものは無い。知れば、友達との話題についていける-(略)-但し違法である。」
※ファスト映画 = 映像を無断で使用し、字幕やナレーションをつけて10分
程度にまとめてストーリーを明かす無料の動画。
しかも有料の映画配信はレンタルショップとはやり方が逆で、新作の方が安か
ったりする。その理由は、いわゆる“映画ファンではない消費者”を一人でも増
やす方が商売として割が良いから。
今や若者の間では、複数のライングループで様々なジャンルの映画の感想や情
報が飛び交う時代となっており、そのため彼らは「大まかなストーリーと結末
だけでも知っておけば話には入れる。」と考えるようになっているのだとか。
著者は次のような分析もしており、私のイメージする若者像との違いに驚いた。
・SNSで迂闊につぶやくと攻撃されるため、事前に考察サイトを読んで、誰も
が同意する“正解”しか言えなくなっている。
・今の大学生が親から貰える生活費は、彼らの親世代(バブル世代)より大幅に
減っている為、金銭的・時間的、そして何よりも精神的余裕が無い。
『映画評論は1980年代まで売れていた』の節では、評論の歴史と変遷の詳しい
解説が面白かった。ちなみに今は(ネット上の)評論テキストよりも、手放しの
絶賛テキストの方がずっと読まれ、SNSで拡散されるそうだ。
最終的に著者が出した見解。
「オリジナルではない形での鑑賞を、ビジネスチャンスの拡大という大義に後
押しされて多くのアーティストや監督が許容したのと同様に、倍速視聴や10
秒飛ばしという視聴習慣も、いずれ多くの作り手に許容される日が来るのか
も知れない。」
ちなみに早送りは若者に限ったことではなく、私も途中から1.2倍速にしたり、
飛ばし観をすることはよくある。逆に好きな映画は何度目かの鑑賞でも飛ばす
ことはない。そんな私が言うのも何だが、会話に参加するためだけに、映画を味
わうことなく“流し見”してしまうのは勿体ないと思う。