[内容]
以前とは様変わりした日本の雇用形態と、その原因、解決策を考察。
[感想]
「気がつけば日本は雇用身分社会」…これは本当にその通りだと思う。今は
コロナ禍も加わって更に修復は難しそうだ。
明治~昭和初期の女工達は、工場主と募集人の契約関係で奴隷に近い扱いだっ
たのは有名だが、著者は現在の派遣制度も又、まともな雇用とは言えない戦前
の雇用身分制に近いものだと言う。
戦後に職業安定法が制定された意図、その後労働者派遣法が出来た経緯も説明
されていて、「派遣は『人夫出し』『人夫貸し』と言われた戦前の労働者供給を
『労働者派遣』と言い換えただけ」と、バッサリ。
個人請負に関しては「雇用関係の無い個人事業主を装った労働者を使用する点
で、雇用の一形態ではなく、むしろ『偽装雇用』と言うべきである。」と説明。
私も以前仕事をしていた時に、個人請負で働く人を何人か見てきたが、一家の
大黒柱で自らその働き方を選んだ人は少なく、先行きの不安をもらす人もいた。
職種にもよるが、実際アンケートなどを見ると“自由で対等な立場”を保持出
来ているのは、ほんの一部のようだ。
ネットでこんな内容の記事を読んだことがある。「日本の製造業の多くが発展
途上国に移転していったが、今は非正規で賃金の安い労働者を雇えるように
なって、移転に歯止めがかかっている。」
しかしこれは、企業にとってはメリットかもしれないが、特に40代以上の男性
の再就職がとても厳しくなっている現状では、労働者を犠牲(非正規・低賃金)に
した活性化に意味があるのか…と疑問しか湧いてこない。
本書には派遣社員に社員食堂や備品を使わせない会社も登場するが、つい最近
迄こういう会社は珍しくなかった。
以前ある会社のお偉いさんが、派遣社員に使わせない理由として「これらは企業
が“社員”に提供している福利厚生である」と語っていたが、こういうやり方に
違和感や不快感を覚えた人は少なくなかったようだ。
実際2015年(本書出版後)に改正された派遣法では、福利厚生施設利用の機会を
与える「配慮義務」が明文化され、2020年の改正では更に進んで「通常の労働
者との不合理な待遇差を禁止」となっている。
これがどこ迄守られているかは分からないが、そんな差別などせずに気持ちよ
く働いてもらった方が、余程会社の利益に繋がると思うのだが。