ほたるBBの 絵と 本と 雑感日記

60代後半に再開したお絵描きと、読書の備忘録。考えさせられたことなども綴ります。

読書感想『危ない法哲学』(住吉正美)

[内容]

国家や法について、古今の哲学者の考えを紹介しながら実例を挙げて考察。

副題『常識に盾突く思考のレッスン』

[感想]

著者は1961年生まれの女性で、大学法学部の教授。

堅苦しい本ではなく、所々にユーモアが散りばめられていて説明も分かり易い。

 

冒頭に「常識を揺さぶる問いを提起したので‐(略)‐気楽に読み進めながら

いろいろ考えていただきたい。」とあり、自由・平等・正義などについて

常識やきれいごとではない本質を突いた意見が並んでいて面白かった。

 

「法を尊重することと、悪法に無批判に従う事とは断じて違う。」「悪法に逆

らうワルになれ。」と、実際に起きた事件を挙げて解説。その中から幾つか

抜粋。

 

・1947年、ある裁判官が不合理な法を遵守した結果、栄養失調により死亡。

・1990年代 政府から減反を強いられたため、富山県の一人の男性が敢えて

 ヤミ米売店を開いて直接販売。食料管理法を廃止に追い込んだ。

ナチス・ドイツ親衛隊幹部であったK・Aは、何のためらいもなくヒトラー

 の命令を遵守したが、実業家のシンドラーはそれとは真逆で、ナチス党員

 でありながら全財産を注ぎ込んでユダヤ人を救済した。

 

学術的なことも幅広く紹介されていて、中でも「無政府資本主義の原則が貫

かれるとどうなるか」を教育・警察・刑罰・戦争の4つの角度からシュミレ

ーションしたものが面白い。ちなみに、その時はかなり緊張度の高い社会に

なるようだ。

 

他にも考えさせられる事例が多く紹介されている。たとえば

売血を禁じている日本は輸血用の血液不足を補うために、皮肉にも売血制度

 がある諸外国から大量に血液を輸入している」

「1990年代から、オーストリア・ドイツ・フランスの民法では『動物は単な

 物ではない』」という改正がなされている。」 等々。

 

「『法律だから』『規則だから』『政府が言うから』という理由で何も考えず

にひたすら守る。それは保身のために思考を止め、ただ多数派の群れの中に

いたい、そして支配されていたい、その結果何が起ころうと自分は責任を負

いたくないという心根の表れである。」

これも著者の言葉で、きつい表現だが確かにこういう人はいる

 

しかし盲目的に従っているように見えても、それは自分や何かを守るためで

本人はちゃんと本質を見極めている場合も多いので、人を見る時そこは気を

付けたいと思う。